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「あの頃からは本当に想像がつかない」と指揮官も驚く変貌ぶり。期待の大器、名古屋のCB三國ケネディエブスがついに“ほんまもん”になりつつある

2024.06.14

大器がついに覚醒か。三國ケネディエブスはその高いポテンシャルを期待されながら本領を発揮できずに来たが、今季から加入した名古屋で状況は一変した。ここまで全17試合にフルタイム出場。各種スタッツはチーム内で軒並み上位を占めるなど、長谷川健太監督の下で、ついにその能力を開花させようとしている。いったい彼に何があったのか。ライターの今井雄一朗が名古屋加入後の変化と成長をレポートする。

ケガ人続出の状況で掴んだチャンス

 この短期間でこれほどまでに、三國ケネディエブスという名前が大きなものになろうとは、そのポテンシャルを評価して獲得に動いた長谷川健太監督さえ、予想していなかったのではないか。

 選手の可能性を引き出すことにかけて定評ある指揮官は、名古屋グランパスでの過去2年間だけでも相馬勇紀、森下龍矢、藤井陽也を代表レベルに育て上げ、海外移籍へと導いてきた実績を持つ。その名将の“最新作”とも言える三國だが、今季の獲得後の評価は決して高いものではなかった。リーグ開幕直前にハ・チャンレ、河面旺成と相次いでDFラインに負傷者が出なければ、良くて開幕ベンチ入り、下手すればメンバー外だった可能性すらある。「何とかグループに入れて、揉まれながらと思ってはいたが、こんなに早く使わなきゃいけない状況が来るとは」とは指揮官の言。鹿島との開幕戦では失点に直接絡むミスも犯し、経験の少なさも露呈。あの惨憺たる90分間を見て、誰が今の活躍ぶり、素晴らしいパフォーマンスの数々を想像できただろうか。

 ただ、大器には覚醒前夜の感もあるにはあった。長谷川監督が三國の潜在能力に着目したきっかけのひとつに昨季のルヴァンカップ準決勝での対戦がある。三國はリーグ戦でもカップ戦でも思うような出場機会を得られずにいたが、過密日程の中で出番を得たこのホーム&アウェイの2試合で出色の出来を披露。取材していた者としても、「なぜこんないい選手がリーグで使われていないのか」と思うほどに、アグレッシブな守備とセットプレーでの怖さを誇示してチームの決勝進出に大きく貢献した。

 もっとも、本人に聞けば「あの1stレグ、2ndレグを通して、プロになって一番の試合、プレーができた」ということらしい。このことを長谷川監督に伝えるとキョトンとして、「そういうのはいらなかったんだよなあ」と名古屋の準決勝敗退の原因のひとつに苦笑いするばかり。実際、沖縄でのキャンプでも三國のプレーは可もなく不可もなくといったところで、練習試合でAチームに入ることの方が結果的には少なかった。

 だからこそ三國は“持っている”選手とも言える。往々にして、伸びていく選手にはそういう星回り、幸運の巡り合わせもあるものだ。同じ名古屋の選手としてよく比較される藤井陽也にしても、出番をつかんだのは負傷者が続出した時期のやむを得ないチーム事情に、彼のポテンシャルに賭けた監督の決断がきっかけではあった。三國の場合は3バックの主力2名が開幕に間に合わず、同じく移籍組の井上詩音と鹿島戦に同時出場し、次節にハ・チャンレが間に合ったことでの二者択一に選ばれたことがまずひとつ。ここで継続して、ある意味では我慢の起用をされていなかったら、今に至る右肩上がりの成長曲線は描かれていなかったに違いない。

 三國はそのパフォーマンスを称賛されるたびに「経験」という言葉をよく使う。もともと持っていた力に今まで乏しかった実戦経験が加わり、その正しい使い方を覚えてきたことが、成長や好プレーにつながっていると言うのだ。そもそもが高校3年生からDFに正式転向した選手である。本職のDFでさえプロの舞台に立てばレベルの違い、質の違いに戸惑うことがあるのだから、主力として扱われる名古屋での試合経験はこれ以上ない勉強と鍛錬の場ともなる。

努力を重ねるなかで“得意の右”を任される流れに

 もちろん活躍は運だけではなく、彼自身の努力の賜物でもある。……

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三國ケネディエブス名古屋グランパス

Profile

今井 雄一朗

1979年生まれ、雑誌「ぴあ中部版」編集スポーツ担当を経て2015年にフリーランスに。以来、名古屋グランパスの取材を中心に活動し、タグマ!「赤鯱新報」を中心にグランパスの情報を発信する日々。

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