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相手の裏をかく天才、菊岡拓朗が来た道。出会った川勝良一、小野伸二の衝撃。消えゆくファンタジスタの矜持とは?【引退インタビュー】

2024.05.04

現役時代は水戸、東京V、栃木SC、札幌、相模原などでプレー。相手の虚を突くテクニックとプレースキックを武器に活躍した“ファンタジスタ”菊岡拓朗が今春、38歳でサッカーキャリアに終止符を打った。もとより溢れた才能を先鋭化させた川勝良一との出会い、札幌で受けた小野伸二の衝撃。ファンタジスタが消滅しつつある現代サッカーへの憂い。引退インタビューを通じて、菊岡拓朗が自身の世界観とこれからを語った。

静岡県選抜のファンタジスタ

――2023年シーズンから関東リーグ2部のCOEDO KAWAGOE F.Cでプレーされていましたが、引退を決意したのはいつ頃ですか?

 「引退を意識するようになったのは2年前の5月頃です。その頃から選手と並行しながらサッカースクールで子どもを教えていたのですが、だんだんと教えることが面白くなっていたんです」

08年に水戸ホーリーホック(08-09)でプロデビューを飾り、その後は東京ヴェルディ(10-11)、栃木SC(12-13)、北海道コンサドーレ札幌(14-15)、SC相模原(16-18)、ラインメール青森(19-21)、SHIBUYA CITY FC(22.2-22.12)、COEDO KAWAGOE F.C(22-23)の計8クラブでプレー。24年2月に現役引退を発表した(写真は本人提供)

――それで今春、埼玉県富士見市に自身のクラブ『AMA』を立ち上げたということですね。

 「小学生を教えているのですが、サッカー選手になりたい子もいるし、純粋にサッカーを楽しみたい子もいるし、いろいろと考えながらですね」

――今はお子さんもいるんですよね。

 「将来はサッカー選手になるぞ、という気ですね。僕から強制はしていませんが、朝起きるとDAZNでサッカーを見ていたり、びっくりしますよ」

――お父さんの試合を観に来たりすると。

 「それもそうだし、この前、ヴェルディとエスパルスのJ1昇格プレーオフ決勝を子どもたちと一緒に観に行きました。プロになるための環境は着々と整えています(笑)」

――この春をもって現役を引退されるということで、改めてキャリアを遡って聞いていきたいのですが、出身は静岡ですから、幼少期からうまい選手がたくさんいたわけですか?

 「僕は静岡でも富士市出身なので、静岡のなかではそこまでサッカーは盛んではないんです。僕がサッカーを始めたのは小学2年生のときにJリーグが開幕し、その影響が大きいです」

――高校は清水東高に行くことになりますが、小・中学時代は名を馳せていたのですか?

 「多少は知られていたと思います。中学時代には静岡県選抜のメンバーに入っていましたが、周りはエスパルスやジュビロのジュニアユースの子たちばっかり。中学生になるときにエスパルスのジュニアユースに行きたかったのですが、電車で20分くらいの距離だったので、まだ通えないなと。セレクションに出ることも断念したんです」

――それで高校では上のレベルでやりたいと。

 「静岡は高校サッカー選手権の熱量がものすごかったので憧れもあったし、強いところに行きたいなと思っていましたね」

――当時からファンタジスタタイプだったのですか?

 「プロになる以前はもっとドリブルをしていましたね。ドリブラーではないですけど、ドリブルしながらスルーパスとか、そういう感じですね」

――清水東高では1年生と3年生のときの高校サッカー選手権で準優勝しています。

 「選手権では2回、決勝で負けているんです。僕が1年生のときは静学(静岡学園)にPKで負けました。静学の3年生には永田充さん、2年生に谷澤達也さんらがいましたね。高3のときには藤枝東に決勝で負けました」

――当時からプロになるつもりでしたか?

 「高校生のときは客観的にまだ無理だなと。体格的に小さく、静岡県選抜として大学生と試合をしたときにまだ差を感じたんです。清水東高は進学校なのでみんな大学に進学しますが、高卒でプロにいったのは高原直泰さん、森勇介さん、内田篤人ら数人しかいなくて、自分は当時そこまでのレベルではなかったです」

川勝良一氏の指導で潜在力を引き出された

――その後、法政大学に進学し、そこで川勝良一さんと出会うわけですね。

 「選択肢として明治大、中央大、法政大の3つがありましたが、法政大には川勝さんがいて、コーチには水沼貴史さんもいたので法政大に決めました。川勝さんがアビスパ福岡の監督になるまで、3年の夏前まで川勝さんに指導してもらえたことは僕にとって大きかった。サッカーのイロハを教えてもらえた方なので」

――川勝さんの指導で印象に残っていることは?

 「川勝さんはミニゲームの中に自分も入ることがしょっちゅうあったのですが、本当にうまくて。今でいう、止める・蹴るの質が高く、ボールコントロール一つでも思わず『うまっ』と声が漏れるほどなんです。僕のスルーパスが通らなかったときに『今、コンマ何秒遅れたな』『もう一人、向こうに走っている選手は見えていたか?』などと具体的な指摘をしてくれて、そんなことを言ってくるんだ、という衝撃はありました。そんな経験は初めてだったし、テクニックとか、頭のなかとか、自分の中にあるものをさらに引き出してくれた指導者です」

――以前、菊岡さんとは「川勝さんの解説が面白い」という話をしたことありましたね。川勝さんの解説は一人、二人の関係性の話がすごく面白い。……

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COEDO KAWAGOE F.C小野伸二川勝良一菊岡拓朗

Profile

鈴木 康浩

1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。

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