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2人の「王」の共存で揺れるシティ。フォーデン・システムの確立とデ・ブルイネ復帰のジレンマ【リバプール対シティ分析後編】

2024.03.15

3月10日に行われたプレミアリーグ第28節、リバプール対マンチェスター・シティ。長年にわたりしのぎを削ってきたクロップとグアルディオラの集大成となる一戦は、現代サッカーの最高峰を知る上で格好の教材と言えるだろう。1-1の引き分けで決着した頂上決戦をエリース東京監督の山口遼氏に分析してもらった。

後編では、インサイドハーフとして覚醒したフォーデン・システムの確立と、デ・ブルイネ復帰以降に模索している新たなバランスのジレンマを掘り下げる。

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天才フォーデンに欠けていた唯一のプレーとは?

 シティの方に目を向けてみよう。

 今季のシティは昨季圧倒的なパフォーマンスを見せたデ・ブルイネがシーズン開幕戦でハムストリングスの肉離れで長期離脱したところから始まった。それによって長らく不在となった王位に、急スピードで成長し収まりつつあるのがフォーデンだ。

 フォーデンはその才能は認められながらも、プレースピードのコントロールに課題を抱えているとして中盤起用よりも左右のWGで起用されることがほとんどであった。しかし、昨季から今季にかけて中盤の選手が移籍で入れ替わったことに加えてデ・ブルイネが離脱したことで、いよいよペップは重い腰を上げ、フォーデンおよびアルバレスが本格的に中盤で起用されることになった。守備強度やゲームコントロールの側面も鑑みて、フォーデンとアルバレスが純粋にIHとして起用される回数こそ多くはなかったが、SBの片上げなどの工夫をしながら中盤でのプレータイムを増やしていった。

 フォーデンはみるみるうちにパフォーマンスを上げていき、シーズンが進みにつれて崩しの局面はフォーデンに依存していると言っても差し支えがないほどのインパクトを残している。フォーデンのプレーで特に良くなったのが、ラインの手前でボールを引き出せるようになった点だ。これまでフォーデンは中央で起用されても、ボールに真っ直ぐ寄ってきてしまうことが多く、淡白なリターンパスに終始するためそもそもあまりボールが集まらないというのが課題だった。筆者が考えるに、実は守備強度やプレースピードのコントロールなどといった顕在化していた課題以上に、次の選手に時間とスペースを配るようなプレーができない、プレーの角度を変えることができないことが中盤の選手としての成長を阻んでいるように見えた。

マンチェスター・ユナイテッドとのダービーではビハインドで迎えた56分にミドルシュートを突き刺し、80分に追加点をゲット。フォーデンがシティを勝利に導いた

 ところが今季、いよいよ中盤として本格的に起用され、責任ある立場でプレーにコミットする機会が増えていくと、ある時期を境に突然ボディアングルをつけながら手前でボールを引き取り、チームを前進させるようなプレーパターンを体得した。彼のプレーの手札に欠けていた大きな穴が埋まったことで、チームのボール保持の中でボールに絡む回数が飛躍的に増加し、存在感が跳ね上がった。手前で変化をつけられるようになったことで、もともと得意だった超絶技巧のターン技術やスペースへの侵入の威力はますます跳ね上がり、チームのスコアボードの中心に踊り出たのだった。

 しかし年明け頃にデ・ブルイネが復帰すると、ペップは頭を悩ませることになる。彼は復帰した初戦からチームを救うパフォーマンスと宝石のようなクオリティを見せつけ、チームの中心は自分だとあらためて印象づけた。これ自体は当然「流石デ・ブルイネ」という話であり、チームにとってプラスでしかないように思えるが、問題は新たな王位に座りつつあったフォーデンとの共存である。

 理論上は彼ら2人の共存にそこまで問題はないように思える。

 そもそもIHは2枠あり、フォーデンは中盤だけでなくWGで使っても良い。デ・ブルイネもボランチでもプレー可能であり、そもそも3バックでのビルドアップにして中盤を4枚にすれば枠も増やすことができる。しかし実際には、2人の共存は絶妙にハレーションが起きる構造になってしまっている。

 まず、単純に2人をIHで同時起用するには守備強度がネックになってくる。そもそもデ・ブルイネは加齢による緩やかな運動量や強度の低下が目立ってきており、昨シーズンの終盤ホーランドとデ・ブルイネの2トップによる[4-4-2]で重心の低い守備を行うことが多かったという背景がある。シャビとイニエスタもさして守備能力に優れたコンビではなかったが、彼らは圧倒的にボール保持に長けた特徴を持っていたことで守備の負担自体が少なかったのに対し、デ・ブルイネもフォーデンもボールを握りにいくためのテンポのコントロールは飛び抜けて得意というわけではない。すなわち、アルバレスとフォーデンがIHで同時起用されなかったのと同じような理由で、デ・ブルイネとフォーデンについても難しさがあるだろう。

復帰後のFAカップ5回戦ルートン・タウン戦では55分までに4アシストを記録したデ・ブルイネ

……

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ケビン・デ・ブルイネフィル・フォーデンマンチェスター・シティリバプール

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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