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「アカデミーランキング」から探る欧州で育成のビジネス化が進む理由

2024.03.13

2024年1月に発表された「最も収益性の高いアカデミー」。ベンフィカが首位に輝いたランキングから見えてくる育成のビジネス化が進む理由を、イングランドでの指導経験を持つ欧州の育成事情に明るいマーレー志雄氏に探ってもらった。

若手見本市としてUEFAユースリーグが果たす役割

 2024年1月10日、スポーツ国際研究機関CIESのサッカー調査部門が「最も収益性の高いアカデミー」という興味深いレポートを公開した。報告書内では、2014年から2023年までの10年間でアカデミー(下部組織)から収益を上げているクラブの世界トップ100をランキング形式で紹介。15歳から21歳の間に最低3シーズン在籍したアカデミー出身者による売却益が対象となっている。

 1位は5億1600万ユーロの収益を上げたベンフィカ。育成プロセスを支える「4つの柱」の下でゴンサロ・ゲデス、ベルナルド・シルバ、レナト・サンチェス、ジョアン・カンセロ、ビクトル・リンデロフ、ネルソン・セメドらを輩出したポルトガルの強豪は、意外にもそのうち65%にあたる3億3500万ユーロを2019年から2023年までの間だけで手にしている。驚くべきことにこの金額だけでも本ランキング内で達成できているのは続く4クラブのみで、6位以下のクラブが10年間でも達成できていない金額をジョアン・フェリックス、ルーベン・ディアス、ゴンサロ・ラモスらを送り出した直近5年だけで獲得したことになる。

マンチェスター・シティで再会を果たしたベンフィカ出身のB.シルバ、カンセロ、R.ディアス

 そのベンフィカに次ぐのが、3億7600万ユーロを上げたアヤックス。2018-19シーズンのCL4強入りを支えたマタイス・デ・リフト、フレンキー・デ・ヨンクらの売却で大金を稼いでいる。2010年代前半から個を育成するために取り組んできた「プラン・クライフ」が実を結び、ダレイ・ブリント、デイビー・クラーセン、ジャスティン・クライファート、カスパー・ドルベリ、ドニー・ファン・デ・ベーク、ライアン・フラーフェンベルフと毎年のように主力が引き抜かれても、その穴を絶え間なくアカデミー出身者が埋めていった実績がランキング最多の売却数32という数字に表れている。

 3位に入賞したのは国にも育成部門が認められているリヨン。サミュエル・ウンティティ、アレクサンドル・ラカゼット、コランタン・トリッソを送り出した2014年から2018年と、マロ・ギュスト、カステロ・ルケバ、ブラッドリー・バルコラが引き抜かれた2019年から2023年の前後半に分けてもそれぞれ1億8500万ユーロを上げており、安定してタレントを供給していることがわかる。

 4位はトップチーム定着例こそ少ないが、欧州5大リーグでプレーするアカデミー出身者の数で首位を走り続けるレアル・マドリー。アルバロ・モラタ、ヘセ・ロドリゲス、マルコス・ジョレンテ、セルヒオ・レギロン、アシュラフ・ハキミをはじめとする計28人を計3億6400万ユーロに換金してみせた。

 イングランド勢は5位からの登場で、チェルシー(5位/3億4700万ユーロ)、トッテナム(8位/2億5600万ユーロ)、マンチェスター・シティ(9位/2億5400万ユーロ)の3クラブがトップ10にランクイン。いずれも2019年以降に売却益を伸ばしており、もちろんスパーズは昨夏去ったハリー・ケインの置き土産が約半分を占めるだろうが、2011年より始動した「EPPP」(Elite Player Performance Plan)の成果としてタミー・エイブラハム(チェルシー出身)、メイソン・マウント(チェルシー出身)、コール・パーマー(マンチェスター・シティ出身)とクオリティとバリューの高い国産有望株を生み出し始めている。

 その他を見ても計80クラブが欧州勢で上位チームは大半がCLの常連だが、UEFAユースリーグが果たしている役割も大きいだろう。

 2013-14シーズンから始まったCL出場クラブのU-19チームが参戦する大陸選手権には単に仕上げの育成をするための国際大会ではなく、関係者もよく視察に訪れているようにそのトップチームあるいは他のクラブに活躍の場を移していくための若手見本市としても機能している。そのファイナリストに史上最多となる4回にわたって名を連ねているベンフィカもゲデス、R.サンチェス、フェリックス、R.ディアス、G.ラモスを16、17歳の飛び級で送り込み、早くから年上相手の経験を積ませて有望株の実力と価値の双方を高めてきた。

2021-22シーズンに通算4度目の決勝進出を果たすと、悲願のUEFAユースリーグ初制覇を成し遂げたベンフィカ

「チャリティでやっているわけではない。ビジネスだ」

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Profile

マーレー志雄

1993年、滋賀県生まれ。日本で3年間の指導経験を積んだ後、イングランドで指導者ライセンスを取得するためにサウサンプトン・ソレント大学のフットボール学科へ。現地でU-12の男子チームから大学の女子チームまで幅広いカテゴリーを指導し、現在は同大学のスポーツ科学&パフォーマンス指導学科で修士課程に進んでいる。Twitter:@ShionMurray

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