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選手発掘の新たなマージナルゲイン?SNSスカウティングが秘める可能性

2024.01.18

巨額の富を生み出す移籍戦略の第一歩となる選手発掘だが、データプロバイダーと映像プロバイダーの進化と普及も相まって、世界中で競争が熾烈を極めている。その新たなマージナルゲインとして注目を集めるSNSスカウティングについて、イングランドのストークでスカウトを務めた田丸雄己氏が解説する。

※『フットボリスタ第98号』より掲載。

 スカウトは選手獲得の意思決定をアシストする役目を担っている。情報収集、経歴調査、関係構築等はこの目的達成のための業務と言える。試合視察がスカウトのメインの仕事と一般的には思われているが、それもまた意思決定を補助する情報収集の一環に過ぎない。その様相は今やテクノロジーの発展、そしてスカウトサービスプロバイダーの出現によって大きく変化を遂げ、コロナ禍も重なる中でビデオやデータをもとに選手のパフォーマンスプロフィールを構築して、ほとんどスタジアムへ足を運ばないスカウトも数多く存在するほどだ。

 この第二勢力とも言えるテクノロジーの情報収集において現在注目を集めているのが、読者にもお馴染みであろうSNSだ。クラブに正式なスカウティングツールとして実装されているわけではないが、スカウト個人が活用して選手情報を探っている。参考としているのは「選手アカウント」と「スカウティングアカウント」の2つだ。

「選手アカウント」と「スカウティングアカウント」の活用術

 まず「選手アカウント」について。例えばInstagramから検索すると、簡単にプレミアリーグクラブのアカデミーに所属する選手(U-8の選手でさえ!)の個人アカウントを見つけられる。彼ら、彼女らは自分のプレーから作成したハイライト動画アカウントで共有することでフォロワーを増やしている。

 特にイングランドでは一部のクラブを除いて、U-18以下のカテゴリーの試合を見ることは映像視聴でも現地視察でも難しい。U-21の試合もクラブ公式サービスの一環で配信しているチームこそあるが、全試合が網羅されているわけではないのが現状だ。練習試合や親善試合のような非公式戦も一般公開されておらず、Wyscoutをはじめとする映像プロバイダー上でも確認は不可能。スカウトや代理人、もしくは選手関係者でない限り、アクセスは許可されない。そんな貴重な情報が選手アカウントを漁れば簡単に手に入るのだ。

 逆に選手がSNSを通じて売り込むケースもある。世界を見渡しても、AFC U17アジアカップ2023準々決勝で日本から得点を奪ったU-17オーストラリア代表の怪物FWネストリ・イランクンダは、2021年7月以前からInstagramに自らのプレー集を載せていた。そこで興味を持った複数の代理人からアプローチを受け、昨年11月にバイエルンへの移籍が決定している。

2023年11月にバイエルンが獲得を発表したイランクンダ。同選手は24年7月からブンデスリーガ王者に加わることになる

 次に「スカウティングアカウント」。欧州・南米を中心に存在するスカウト系アカウントのことだ。彼らがカバーしている選手は各国のプロクラブでトップチームデビュー済みの有望株に限らず、ローカルチームに籍を置きながら年代別代表に選出されているような無名の10代も含まれる。またクラブでは追い切れないニッチな選手情報も多く、例えば南米の地域リーグを席巻している16歳や日本の大学リーグで活躍する19歳などのプレー分析が日常的に投稿されている。……

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フットボリスタ第98号

Profile

田丸 雄己

1994年生まれ。高校卒業後、イギリスに短期留学した後、Jクラブやサッカーコンサルティング会社での勤務を経験。その後、イギリス、ロンドンにあるセントメアリーズ大学に進学。在学中にチェルシーアカデミーでスカウトのインターンを経験し、現在は英二部ストーク・シティとスコットランド一部マザーウェルでスカウトとして活動中。ロンドンエリア、Jリーグのスカウトを担当している。

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