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ガクポらを支える個人戦術指導の専門家、ローラン・フリーリンクとは何者か

2024.01.07

2021-22シーズンにエールディビジで27試合12ゴール13アシストを挙げ、カタールW杯では5戦3発のブレイクを遂げたコーディ・ガクポ。その活躍が認められ昨冬にPSVからリバプールへ加入したオランダ代表FWのステップアップを支えているのが、個人戦術コーチであるローラン・フリーリンクだ。彼が発起人である戦術コンサルタント集団「タクタライズ」とは一体何者なのか。現地在住の中田徹氏に聞いてみた。

3つのサッカーでガクポの実力を発揮させた戦術指導

 2022年11月のカタールW杯、オランダの初戦の相手はセネガルだった。オープンなチャンスを作りきれない重苦しい展開となり、試合は0-0のまま終盤を迎えた。すると84分、左からフレンキー・デ・ヨングがカーブのかかったクロスをGKとDFの間に入れた。キーパーがパンチで防ぐか!? そう思った瞬間、集中力を欠いているセネガルDF陣の死角からコーディ・ガクポがゴール前に走り込み、ヘディングシュートを決めて均衡を破った。試合終盤のアディショナルタイムに追加点が生まれ、オランダは2-0で初戦をものにした。

GKメンディとの空中戦を制し、オランダに先制点をもたらしたガクポ

 ガクポの兄シドニーは、「あなたの個人戦術トレーニングなしに、弟のゴールはありえませんでした」とローラン・フリーリンクにメッセージを送った。

 オランダ国内で「規格外のタレント」と目されていたコーディ・ガクポは2季連続でシーズン7ゴールを記録して、21-22シーズンを迎えた。「本当のトッププレーヤーにたどり着くために、もっと自分を磨きたい」と決意した大器に、兄はフリーリンクを紹介した。

 この頃のガクポは左サイドからピッチのあらゆるところに顔を出してボールに絡み、相手との1対1に挑み続けたり、長駆ドリブルでファンを湧かせたりするプレーが多かった。そんな彼のプレーを分析したフリーリンクは言った。

 「ファイナルサードでの動きを改善し、ゴールとアシストに直結するプレーを増やそう」

 それまでのガクポのプレーはエネルギー効率が悪く、肝心のシュート、クロス、ラストパス、これらゴールに直結する最終局面でのパワー、正確性、集中力を欠いていた。フリーリンクのサポートを得たガクポは「ランニングアクションを改善して、いかにしてスコアリングポジションに入り込むか」といったオフ・ザ・ボールのプレーの質を高めていった。その結果21-22シーズンにガクポは27試合で12ゴール13アシスト、キャリアハイとなる素晴らしいスタッツを残した。

 22-23シーズンのガクポはさらに飛躍し、前半戦の14試合だけで9ゴール12アシストの固め取り。W杯では3ゴールと気を吐いて、大会後にリバプールへステップアップを果たした。

 フリーリンクとの戦術セッションに明け暮れた1年半、ガクポはPSVで[4-3-3]の左ウイングという点では同じながら2020年から22年までPSVを指揮し、現在はベンフィカの監督を務めるロジャー・シュミットの『ゲーゲンプレッシング』、シュミットの後任となったルート・ファン・ニステルローイの『ポゼッションサッカー』と異なる2つの戦術でプレーし、ルイ・ファン・ハール率いるオランダ代表では、[3-5-2]を主軸とする『カウンターサッカー』で2トップの一角、トップ下のポジションをこなした。

PSV時代のイブラヒム・サンガレ(現ノッティンガム・フォレスト、右)とガクポ。現在は両者ともにプレミアリーグへのステップアップを果たしている

 代表とクラブを行ったり来たりしながら、異なる戦術・メンバーで力を発揮することができたのは、フリーリンクの戦術指導のおかげだろう。

 「コーディはボールがない状況でより良いランニングをするようになりました。首を振って周囲のスペースを観察し、状況を認識しながら、相手のDFラインが上がった瞬間など、ランニングを始めるトリガーを探している。セネガル戦のゴールは、まさに我われが取り組んできたことの成果でした」……

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コディ・ガクポローラン・フリーリンク

Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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