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【大分・新旧指揮官対談/取材後記】カタさんからシモさんへ、そして再び…。盟友2人の強い絆

2023.12.11

大きな反響があった「片野坂知宏×下平隆宏」の大分・新旧指揮官対談。実現したきっかけ、2人の盟友関係がうかがえる収録時の様子、そしてカタさんからシモさんへの粋な計らいとは? 対談を企画してくれたひぐらしさんによる取材後記をお届けする。

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 12月4日から3日連続で3回にわたりお届けした、大分トリニータにまつわる2人の智将によるエキサイティングな対談。互いに「カタ」「シモ」と呼び合う2人は1990年の第68回高校選手権1回戦で鹿児島実業高校と五戸高校のそれぞれのキャプテンとして対戦して以来、切磋琢磨しながらサッカー道を歩み、現役時代には柏でチームメイトだった時期もありつつ、Jリーグのチームを率いる指揮官となった。

 カタさんは2016年に大分で監督キャリアをスタートすると、J3に転落したチームを3年で2段階昇格させJ1で3シーズン粘ったが、2021年にはコロナ禍の影響による4枠降格の煽りも受けてJ2降格。その責任を取る形で自ら退任を申し出た後、第101回天皇杯準優勝を遂げ、ファンやサポーターたちに惜しまれながら大分を離れた。その盟友から翌年、チームを託されたのがシモさんだ。2016年3月に柏で監督となって足かけ3シーズンを務め、2019年からは横浜FCで指揮を執り最初のシーズンにJ1昇格を果たしたが、2021年4月に成績不振により解任されていた。

きっかけは「エコロジカル・アプローチ」への興味

 ともにポゼッション志向の攻撃的スタイルを目指しながら、その内容は似ているようで大きく異なる。選手へのアプローチやチームビルディングの方法も、それぞれに違っていた。そんな2人に思う存分、サッカー観を語っていただく企画を思いついたのは9月4日、それもフットボリスタwebに掲載する記事のためのインタビューの場でのことだ。

 大分での任を終えたカタさんは2022年にガンバ大阪の指揮官となり、関西のビッグクラブに新たな攻撃的スタイルを浸透させるべく奮闘したが、その過程で戦績が伴わず、8月に志半ばで解任されると、以後は解説の仕事をしながら充電期間を過ごしていた。そのカタさんにJ1で戦う監督たちについて語っていただきたいという企画が編集部から舞い込んだので取材依頼の連絡を取ると、ちょうど九州に来る仕事がありその帰りに大分に寄るから、オンラインではなく対面で話しましょうと言っていただけた。

 9月4日、カフェで向き合いながらのインタビューは、大いに脱線しながら3時間半に及んだ。DAZN解説の場でも垣間見えるカタさんの分析力の鋭さは記事本編で堪能いただくとして、脱線の中でも特に盛り上がりを見せたのが「エコロジカル・アプローチ」にまつわる話だった。今季、大分での2シーズン目を迎えたシモさんは、自身初の試みでもあるボトムアップ方式のチームビルディングにチャレンジ中で、シーズン途中からはトレーニングメニューにもエコロジカルな色が濃くにじむようになっている。カタさんは「僕も今、それに興味があるんだよね」とカフェのテーブル越しに身を乗り出した。

 昨季の経験を踏まえて新たな試みへと踏み出したシモさんが、その試行錯誤の日々の途上で「目からウロコだった」と評したのが、今年7月にソル・メディアから刊行された『モダンサッカー3.0 「ポジショナルプレー」から「ファンクショナルプレー」へ』(アレッサンドロ・フォルミサーノ、片野道郎・共著)の一冊だ。「今季に臨むにあたり僕が考えていたチームマネジメントがまさにこれだった。それでトレーニングにもその要素を取り入れるようにした」と言う。ここ数年で徐々に注目度を高めているエコロジカル・アプローチだが、実際の現場でのロールモデルはいまだ少ない。シモさん自身にとっても初めてのチャレンジ段階だ。

 そんなシモさんと、今は現場を離れている中で広島のスキッベ監督のチームマネジメントから多くを学んでいるというカタさんとがこれについて話をすることは、各年代の指導者をはじめとする多くの読者に、思考の手がかりや刺激をもたらすのではないかと、インタビュー中の脱線の流れから思いついた。

 カタさんとシモさんの双方に了承を得た後に、企画書を提出してクラブからも承諾を得た。カタさんは10月29日のJ2第40節・秋田戦のNHK大分での中継で解説を務めるために、その週の頭から大分に滞在してグラウンドに通うというので、その間にシモさんとの日程を調整しましょうということになった。

 10月26日、練習を終えたシモさんと取材を終えたカタさんが大分市内某所の貸会議室に顔を並べた。いつもフットボールの最前線と深淵とを教えてくださる2人が並んでいる、その絵面だけでテンションが上がる。対談はシモさんがカタさんに「スキッベ監督の指導ってどんな感じ?」と問うところから始まった。

サッカー談義に花を咲かせる大分トリニータ前監督の下平隆宏(左)と現監督片野坂知宏(Photo: Hinatsu Higurashi)

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下平隆宏大分トリニータ片野坂知宏

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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