昨季LASKリンツをオーストリアリーグ3位に導いた31試合14ゴール7アシストの活躍が認められ、リーグ1のスタッド・ランスへステップアップを果たしたばかりの中村敬斗。同じく日本代表FWの伊東純也が牽引する新天地での初得点と、そのウイングコンビが発揮する脅威と存在感を現地フランス在住の小川由紀子氏がレポートする。
今夏、スタッド・ランスに加入した中村敬斗がリーグ1・6節のリール戦で、入団後初得点を決めた。
ランスが1-0でリードしていた16分、ゴール正面やや左寄りの位置で、フリーの状態でボールを受けた中村は足下に身を投げ出してきた相手GKをうまくかわして、冷静にシュートを沈めた。
オーストリア1部のLASKリンツからランスへの移籍がまとまる前、中村には奇しくもリール入りの話が浮上していた。左ウイングを探していた彼らにとってファーストチョイスだったそうだが、現地記者の話では外国人(EU圏外)枠が埋まっていたため、誰か1人を手放すという算段に時間がかかり、 その間にランスとの契約がまとまったとのことだった。
結局リールは昨季トルコ1部のアランヤスポルに貸し出されていたベンフィカ出身の29歳、イバン・カバレイロをフルアムから獲得したのだが、よりによって中村に鮮やかな得点シーンを見せつけられたのはさぞ無念だったことだろう。
「1年に1回出るぐらい」の膝滑りに隠れた迷いと喜び
起点となる貴重な働きをしたのは右サイドに陣取る大先輩、伊東純也だ。 同サイドから展開されたボールをハーフウェイライン付近で受けた伊東は、プレスをかけにきた相 手を背負いながらボールをキープし、真正面の相手の股下を抜く技ありのパス。中央から抜け出したMFマーシャル・ムネツィがこれを受け取り、左方からゴール前に向かって爆走してきた中村に横パスを出した。
フリーでボールを受けた中村は、絶好のタイミングで飛び出してきたリールのフランスU-21代表GKリュカ・シュバリエに正面を塞がれた状態から冷静に切り返すと、飛び込んできたシュバリエを越えつつ左右からカバーに入った相手DF2人も為す術のない軌道を描く、狙い通りのループシュートを蹴った。
ノーマークの状態で右から横パスを受け取っての決定機は、9月に日本代表の一員として臨んだトルコ戦での自身2点目を思い起こさせるシチュエーションだ。
チップキックは「体が勝手に動いて」繰り出したものだった。……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。