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三笘は新種のゴールを「発明」した

2023.06.15

カタールW杯グループステージ第3節スペイン戦での決勝点アシストが「三笘の1mm」として物議を呼んだ日本が誇るドリブラーは、所属のブライトンへ帰還した2022-23シーズン後半戦も世界中から注目を集めた。その名を一躍轟かせたのは1月29日のリバプール戦(2-1)、衝撃の空中ダブルタッチから生み出した劇的逆転弾だろう。翌日イタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』に寄稿された、スーパーゴールの解説記事(2023年1月30日公開)を特別掲載する。

『フットボリスタ第96号』より掲載。

 三笘薫という名前が話題に上るようになってから何週間か経つ。しかし昨日、FAカップ4回戦のリバプール戦92分に決勝点を決めた時から、状況はまったくコントロール不可能になった。あらゆるSNSでこのゴールがさまざまな感嘆、驚き、賞賛のコメントとともに取り上げられバズっているのだ。

 我われもこのゴールについて語ることにしよう。しかし最初に言っておくべきは、このゴールは何もないところから突然生まれたわけではないということ。目の前の相手をいかに抜き去るかを常に考えながらプレーする三笘は、試合を通してリバプールの右サイドにとって文字通りの悪夢であり、ゴールはそのいわば総仕上げともいうべき一撃だった。昨日その主な「犠牲者」となったのは、1対1の守備にやや難があるトレント・アレクサンダー・アーノルド。三笘はスピードがあり多彩なフェイントと緩急のバリエーションを誇るだけでなく、左右両足のインサイドとアウトサイドを自在に使い分けるため、好きなタイミングで好きな方向に突破することができる。この試合では10回突破を試みて7回成功した。いずれも単に目の前に立つ相手を抜き去ることだけが目的ではなく、続いて決定的なアシストやシュートチャンスを作り出すための突破だった。

 三笘にとってはこれがプレミアリーグで初めてのシーズン。この『ウルティモ・ウオモ』が以前から推している(2020年のベストチームランキングで6位に選出)川崎フロンターレで、デビューシーズンにJリーグベストイレブンに選ばれる活躍を見せ、それに目をつけたブライトンが移籍金300万ユーロ(約4億円)で獲得した。プレミアリーグが欧州サッカーを支配しているのは、単に経済的側面だけの話ではないことがこの事例からもわかるだろう。翌年はブライトンの傘下にあるベルギーのユニオン・サンジロワーズにレンタルされ、リーグ戦21 試合5ゴール4アシスト。昨夏ブライトンに復帰した時には、フィジカル面でトップチームで生き残れるレベルにあるか不安視されていた。しかしトレーニングを通じてこの側面も向上し、今ではブライトンで最も重要なプレーヤーの1人となった。知っての通り、ロベルト・デ・ゼルビ監督が用いるポジショナルプレーにおいて、ドリブラーは大きな鍵を握る重要な存在である。三笘は日本の筑波大学でスポーツを専攻し、ドリブルをテーマにした卒業論文で学位を取得した。なぜそうしたのか? サッカーとドリブルを愛しているから。シンプルだ。チームメイトの頭にGoPro のカメラを着け、ドリブルが得意な選手とそうでない選手の違いを観察することで、サッカーにおいて最も魅力的でかつ謎の多い技術であるドリブルの本質を見出そうと試み、その答えを見出した。「優秀なドリブラーはボールを見ずに常に前を向き、足下に目を落とすことなくボールをコントロールしている。最も大きな違いはそこにある」――サッカーにおいて理論と実践が一致するのはレアなケースだが、三笘は自身が世界で最もレベルの高いリーグにおいて最も優秀なドリブラーの1人だ。90 分あたりのドリブル成功数はプレミアリーグ2位で、彼を上回るのは、サイード・ベンラーマ(ウェストハム)だけ。長袖のゲームシャツ、膝の上まで引き上げたストッキング、そして手袋。三笘は、ボールを持って前を向いただけでスタジアムの空気が一変するプレーヤーの人になった。ざわめいていた観客が息を呑み、何が起こるのかという期待に満ちた沈黙にスタンドが満たされる。

……

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ウルティモ・ウオモブライトン三笘薫

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ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。

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