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フェデリコ・ディマルコは努力の天才。小さなインテリスタがCL決勝の大舞台に立つまでの物語

2023.06.10

現地時間6月10日、いよいよ22-23シーズンの欧州サッカーを締めくくるCL決勝が開催される。クラブ史上初のビッグイアー獲得を目論むマンチェスター・シティと激突するのは、2季連続で国内2冠を達成したインテルだ。愛するクラブの13年ぶり4度目の優勝を懸けて大舞台に立つであろう幼少期から魂まで“ネッラズーリ”(黒と青)に染まっている小さなインテリスタの物語を、インテリスタの白面(@Hakumen9b)さんが振り返る。

 さて、いよいよ待ちに待った、22-23CL決勝がやって来る。

 様々な意味で楽しみが尽きないが、自分が特に注目しているのが、お互いの持つ「文化のぶつかり合い」だ。別の言い方をするなら、CLやW杯といった国際大会の魅力の一つに、イデオロギーの対決があると考えるわけである。

 例えば、所属リーグの特徴や、ファンの持つ価値観。向いている選手や監督といった要素は、最もわかりやすいグルーピングの材料となる。よりミクロなレベルでは、クラブ哲学がそうだ。経営方針、予算規模。そして在籍選手達の傾向……平時は決して交わることのない相手同士が、互いのイデオロギーを全面衝突させて戦う様が、こうした国際大会の魅力と感じるのだ。

 だとすれば、今のインテルで、クラブのイデオロギーを体現する者は誰だろうか。

 今季のスタイルを、クラブカラーを、青と黒で彩られたこのシャツに通す魂を象徴する者は誰か。しかも、ピッチ上で相対するマンチェスター・シティがもつイデオロギーから、最も遠いところにいる者だ。そこまで考えた時点で一切の迷いなく、ただ1人の顔と名前が浮かんできた。

 その男は、決戦の地イスタンブールで最初にコールを受ける22人のうち、おそらく最もネームバリューが低い選手である。加えて、国際舞台での経験も浅い。先のW杯に至っては、バカンス先や自宅で、テレビ観戦するしかない立場にあった選手なのだ。普段からセリエAを見ない方にとっては、いっそ「誰?」と困惑される存在だと思う。

 それでも間違いなくこの男は、今のインテルを象徴する選手の1人だ。今季苦しい戦いを続けてきたチームにおいて、常に気を吐き、存在感を発揮し続けてきた。昨季MVP級の活躍を披露していたイバン・ペリシッチ(昨夏トッテナムへと移籍)の大穴を埋め、後継の本命と見られたロビン・ゴセンスとのポジション争いを制し、左サイドの新たな基準点となった。その実力のみを武器に、ミステルの信頼とファンの愛情を勝ち取った男である。

 フェデリコ・ディマルコ。

 幼くしてクラブに愛情と忠誠を誓った彼は、長い旅路の中にあっても、決して初心を見失わなかった。その複雑なキャリアの中にあっても、「インテルのユニフォームに袖を通すこと」に、唯一無二の価値を見出してプレーし続けてきた。複数のクラブを渡り歩きながら、各地で結果を残し、ミラノへの帰還を果たしてみせたのだ。ニコロ・バレッラやアレッサンドロ・バストーニすら及ばない、今のインテルにおける最大の出世魚の物語を、大舞台を前に振り返ってみよう。

両拳を突き上げるディマルコ。22-23CLのグループステージ第3節バルセロナ戦

幼くして発現した青と黒の血。選手である以前に「インテリスタ」

 フェデリコ・ディマルコは、そもそもミラノで生を受けた選手である。東部に位置するカルバイラーテという小さな街で、幼い頃から7人制サッカー(日本でもジュニア世代ではお馴染み)に慣れ親しんで育ったという。

 成長とともに11人制サッカーを始めてからはSBとして頭角を現し、7歳で地元インテル・ミラノの下部組織へと入団を果たしている。当時から能力のバランスの良さには定評があり、ユース世代での活躍を経て迎えた2014-2015シーズンには、当時インテルの監督であったロベルト・マンチーニ(現イタリア代表監督)によって導かれ、17歳でトップチームデビューを果たしている。年間通してELにおけるたった1試合、しかも後半からの途中交代ではあったが、紛れもなく快挙と言えるだろう。

 だが、特筆すべきはむしろ、本格的なフットボーラーとなる前にある。物心ついた頃から、インテルの熱狂的なファンになっていたことだ。彼の親戚筋には熱狂的なインテリスタが多数おり、インテルを愛するようになったのは、極々自然な成り行きであったそうだ。何せ、彼の父親自身がインテルのウルトラスグループであるクルバ・ノルドのメンバーなのだ。必然、フェデリコ少年は、幼少期のうちから父の「英才教育」を受けて育った。これはすなわち、幼い頃からインテルの試合を“見る”のではなく、ピッチ外のメンバーとして“戦ってきた”ことを意味する。これは他の現所属選手にない、ディマルコだけが持つ特異な経緯だ。

 事実ディマルコに対しては、クルバ・ノルドも特別な感情があることを公言している。象徴的な出来事があった。先日のCL準決勝で実現したミラノダービーの第2戦で、インテルが勝利した際のことである。0-2、1-0というダービーでの連勝および決勝進出という事態に感極まったディマルコは、マイク片手に両クラブのウルトラス間で“禁忌”とされた、ミランを侮蔑するチャントを歌う愚挙を犯してしまう。当然、ミラニスタたちは激怒。そして過激な一部のファンが、彼の自宅前に「プレーに集中しろ、でなければその舌を飲み込ませる」と、脅迫めいたバナーを掲げる事態に発展してしまったのだ。

ミランとのCL決勝第2戦後にマイクを手に取ってサポーターと喜びを分かち合ったディ・マルコだが…

 いち早くSNSで謝罪の言葉を発したディマルコの心境にクルバ・スッド(ミランのウルトラスグループ)が理解を示したためにことは沈静化に向かったのだが、クルバ・ノルドの行動も迅速だった。公式Instagramを通じ、本人にそろって頭を下げたのである。この時のコメントを要約すると、「ディマルコは素晴らしい男で、俺達のお気に入りの選手だ。ユース部門で育ち、戻ってきた選手であり、他の選手とは“重み”が異なる。俺達は彼を熱狂的に愛しているんだ」「だからこそ、この行為は残念だった。クルバ・スッドが怒るのも道理だろう。例え勝者であっても、敗者に対してやってはならない行動がある。彼はあのチャントが禁じられていたことを知らなかった。だが、過ちは過ちだ。謝罪は当然だと思う」「その上で、彼が即座に、正しく謝罪したことを受け入れてほしい。お互いの均衡と安全、そして代々祖先から受け継がれてきた敬意のためにも」といった内容だった。その真剣味からも、熱の入れようと絆の深さが伝わるというものである。

 「自他ともに認める、生粋のインテリスタ」

 これは彼を語る上で、外すことのできない個性なのだ。

5年半の長い旅路と恩師との出会い。色あせなかった古巣への憧憬

 そんな深いインテル愛とは裏腹に、ディマルコの下積み時代は長かった。少なくとも現在スタメンに名を連ねるメンバーの中では、突出して目立たないキャリアを歩んできた選手だ。……

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Profile

白面

集団心理とか、意思決定のノウハウ研究とかしています。昔はコミケで「長友志」とか出してました。インテルの長所も短所も愛でて13年、今のノルマは家探しです。

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