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「試合に出続けることは、点を獲り続けることとイコールだと僕は思っている」 徳島ヴォルティス・千葉寛汰インタビュー

2023.02.08

今年3月に開催される「AFC U20アジアカップウズベキスタン2023」で活躍が期待される選手の1人が千葉寛汰だ。昨年のU-20アジアカップ予選では2戦目のグアム戦でダブルハットトリック、3戦目のパレスチナ戦でもハットトリックを記録し、9ゴールの大暴れ。今シーズンは清水エスパルスからの期限付き移籍で徳島ヴォルティスに加入。今後のキャリアにとっても重要なシーズンの開幕を前に、現在の想いを本人に語ってもらった。

ラ・リーガのトップレベルをそのまま持ってきてくれている

――キャンプも終わって、開幕への準備も進んでいると思いますが、チームとご自身の状態はいかがですか?

 「チームは1か月弱ぐらい新しい監督の元で練習して、最初は戸惑いや難しさもありましたけど、少しずつ慣れてきて、監督のやりたいこともわかり始めてきて、ちょっとずつ手応えを感じてきている最中です。個人としてはコンディションが凄く良いですし、あとはアピールを開幕までし続けるだけだと思っています」

――ラバイン監督の指導を受けて、新たに感じたことはありますか?

 「レアル・ソシエダから来られた方なので、ラ・リーガのトップレベルをそのまま持ってきてくれている感じで、その中で自分がやれていることは選手としてラッキーなことだと思いますし、凄く楽しいです」

――練習中からスペイン流を感じる場面はありますか?

 「まず練習の強度がメチャメチャ高いですね。『基準はこれなんだな』とハッキリ感じさせられるぐらいインテンシティ高く、メリハリのある練習をやっています。繋ぐ意識ももちろんありますけど、まずは戦うところや走るところを求められます」

――トレーニングマッチの大分トリニータ戦ではゴールも決めていましたね。

 「あの試合で1点決められたことは良かったですけど、キャンプの3試合を通してメチャメチャ良いアピールができたとは思っていなくて、新しいシステムにまだ適応できていないと感じているので、そこはもっとしっかり理解していきたいです」

――キャンプの同部屋は松澤(香輝)選手だと聞きました。

 「優しくしてもらいましたし、しかも昨年まで選手会長なのでチームのことも『この選手はこういう性格だよ』とかいろいろ聞けたのでありがたかったです。メチャメチャ良い人です」

――柿谷(曜一朗)選手の存在はいかがですか?

 「プレーは『上手いな』の一言に尽きる感じで、本当に気さくな人なので、それこそ育成年代の代表のことや海外の話を聞いたりして、ピッチ内外で学べることが多いなと感じています。みんな質問しにいっていますし、柿谷選手からもアドバイスをくれますし、お互いの関係性が良いなと思います」

――キャンプもあったから、まだ徳島ではそこまで生活していないですよね?

 「はい。キャンプの方が長かったので、帰ってきて少し美味しいゴハンのお店を聞いて行ったぐらいです(笑)」

トレーニングマッチではゴールを決め、アピールを続けている

直感的に『これは絶対に行くべきなんじゃないかな』

――ルーキーイヤーとなった2022年シーズンを振り返ってもらいたいと思います。まず始動から5月まで活動したエスパルスでの時間はどういう経験でしたか?

 「その時の感情としては“地獄”にいるような感じでした。毎日が楽しくなかったですし、『どうしたらいいんだろうな……』と思っていました」

――自分の中では何が一番うまく行っていなかったイメージですか?

 「まず前提として、『自分はやれる』『自分は試合に出られる』と思ってプロに入りましたし、まったく試合に絡めない経験はあまりしたことがなかったので、『こんなにキツいんだ』と感じていました。(松木)玖生や北野(颯太)、山根陸とか同年代の選手が活躍しているところを見ると悔しかったですし、どんどん『オレは何をしているんだろう……』というネガティブな感情になっていったので、そこはキツかったですね」

――トレーニングで周囲とのレベルの差みたいなものは感じていたんですか?

 「リーグが開幕した頃は、紅白戦の時も何人かでピッチの外で1対1をしたり、ボール回しをしたりしていたので、練習にも入れないような時間もありました。でも、自分がメチャメチャ劣っているとは感じなかったですし、キッカケ1つで行けそうな感じもあって、『試合にさえ出してもらえれば、自分はやれる』とは常に思っていました。そんな時期に先輩や経験のある方から、『この時期の取り組み方で本当に変わるから』とは言われていたので、気持ちは落ち込みましたし、しんどかったですけど、やるべきことはずっとやり続けた自負はありますし、取り組み自体は良かったと思っています」

――その時期に声を掛けてくれたのはどういう選手ですか?

 「権田(修一)選手は試合に出られなくて落ち込んでいる時に、『シュート練習やろうぜ』と声を掛けてくれたり、食事の時も隣でいろいろ話を聞かせてくれたりしました。それはありがたかったですし、権田選手に限らず、いろいろな方から『頑張れ』と言ってもらいました」

――Jリーグデビューとなったルヴァンカップの試合の相手がヴォルティスだったのは、なんか因縁めいていますね。

 「それは今回移籍を決めた時に思いました(笑)」

――デビュー戦はどういう試合でしたか?

 「全然自分の良さが出せなくて、不完全燃焼で終わった試合でした。自分はデビュー戦でゴールを決めて、そこから一気にサポーターの間で自分の名前が知られていくことしかイメージしていなかったので、実際に何もできずに、試合にも勝てずに終わって、『ああ、こんな形で終わってしまった……』って」

――5月下旬にJ3のFC今治への期限付き移籍が発表されます。この決断はどういうものでしたか?

 「そのタイミングでU-19日本代表の海外遠征に落とされたんです。その時にちょうどオファーが来て、直感的に『これは絶対に行くべきなんじゃないかな』『ここで行ったら人生が変わるな』と感じたので、それで決めました。ずっと悔しい日々が続いていて、自分の力を証明したかったですし、とにかく試合に出て『自分はやれるんだぞ』ということを示したかったので、今治に飛び込みました」

――今治に行ってから、9月までの3か月半で13試合3ゴールと。その時期はいかがでしたか?

 「キツかったです。『J3に来ても、オレは点が獲れないのか』と。本当に『もう終わっちゃうんじゃないのかな?』とも思いましたし、途中から入ったこともあって、チームのスタイルや土地自体に馴染むのも難しかったです。でも、本当にやり続けることが大事だと考えていましたし、自分は点を獲り出したら止まらないタイプなので、その時期が絶対に来ると信じていました」

――その時期の自分を支えていたものは何だったんですか?

 「『絶対に代表に帰ってやる』という想いもその1つでしたし、これはずっと言い続けているんですけど、とにかく『自分が世代のナンバーワンストライカーだ』ということを証明し続けたいので、それがモチベーションでした」

――そして、9月にU20アジアカップに臨んでいたU‐19日本代表に追加招集されて、最初の試合でダブルハットトリックを決めるわけです。そこが去年のターニングポイントという認識でいいですか?

 「そうですね。最初から選ばれていないことに対しても納得が行っていなかったので、追加で呼ばれたことにも『オレってそんな立場なのかよ』と正直思ったんですけど、それが現実なので受け入れつつも、自分がしっかり頑張ったからそのチャンスが巡ってきたわけで、『やっと自分の価値を証明するチャンスが来たんだから、あとはゴールを決めるだけだな』と思っていました」

――それでもダブルハットトリックなんてやりますか(笑)

 「『やってやった』という感じですよ。『見たか』って。フォワードって点を獲る感覚が凄く大事で、相手が格下であろうが、どんな状況であろうが、点を獲ることがとにかく大事で、プロに入ってからは自分の最大の武器の『点を獲る』というところを忘れかけていたのかなって。そこで2試合で9点決めて、『やっぱりオレは点を獲ることで輝ける選手だな』ということを改めて感じて、点を獲ることの気持ち良さや喜びも含めた感覚が戻った大会でした」

――去年はあの試合までなかなか点が獲れていなかったのに、あそこで急に、しかもあんなに点を獲れたのは。何が理由だったと思いますか?

 「プロに入ってから苦しい時間が続いていて、5月の代表に落ちた時なんてどん底の状態だったんです。でも、そこで腐ったり、諦めたりせずに、常にベストを尽くして、やるべきことをやり続けてきたことが、ああいう結果に繋がったのだと信じていますし、上手く行かない時や苦しい時の取り組みが、すべてだったんじゃないかなと思います」

――帰国直後のテゲバジャーロ宮崎戦で、いきなり2ゴールと。「ああ、もうJ3でも全然点を獲れるな」というマインドになりましたか?

 「点を獲る感覚を持ち返ってきてのその試合だったので、そこでも2点決めて、それからは『もう“敵なし状態”で点を獲れるな』という感じでした(笑)」

2022 明治安田生命J3リーグ第26節 テゲバジャーロ宮崎 VS FC今治ハイライト

――確かに“敵なし状態”でした(笑)

 「1回そのゾーンにさえ入ってしまえば、ずっと獲り続けられるんです」

――そこから4戦連発で、結局帰国後は9試合9ゴールでした。

 「そもそもそれぐらいやらなきゃダメなんですよ。J1からJ3にカテゴリーを落としているわけで、『最低でも10点は獲らなきゃな』と考えていましたし、それを達成しなければ、エスパルスどうこうではなくても、次のチームもないなと感じていたので、よく『J3で12点も獲って凄いね』と言ってもらったんですけど、僕は普通だと思っています」

――千葉選手らしいです。今治で過ごした約7か月間は、今から振り返るとどういう時間でしたか?

 「うーん……、サッカーで言えば点が獲れる時期も獲れない時期もあったんですけど、それでも試合に使ってもらえたことは凄くありがたかったですし、最後の方は昇格争いの中で緊張感も感じながら、タフなゲームを毎週できたことは非常に良かったです。サッカー以外の部分では、自分は初めて静岡を出たので、知らない土地でしっかりと生活していく力を身に付けられたと思いますし、あとは人との出会いの部分で、本当に多くの方々に良くしてもらって、先輩にもスタッフの方にも助けてもらった部分が多かったので、メチャクチャ感謝していますね」

――サッカー選手じゃなかったら、それこそ今治に住むこともなかったでしょうしね。

 「だって、オファーが来るまで今治がどこにあるのか知らなかったですから(笑)」

自分の名を売るイメージは常に持っています

――今シーズンは、ヴォルティスに期限付き移籍で加入しています。この決断の理由を聞かせてください。

 「自分としてはエスパルスに帰るには、まだまだ力が足りないなと思っています。ヴォルティスはそれこそルヴァンカップでも対戦していて、凄く良い印象がありましたし、若い選手が活躍して、さらにステップアップしていくイメージもあったので、岡田(強化部長)さんと面談して、自分に期待してくれているところやクラブのビジョンを聞いて、『ここなら成長できるな』『自分がもっと大きくなれるな』と感じたので選びました。やっぱり中に入ってみても、勝っても負けてもスタイルを変えずにやり続けられるものがあるチームですし、ブレないビジョンを貫き通せるクラブだなと思います」

――「2023年はこういうことをやってやりたい」と考えているのはどういうことですか?

 「点を獲り続けることです。やっぱりそれでしか自分の存在価値は示せないので、たくさん点を獲って、自分の名を売る。それだけです」

――具体的な数字のイメージはありますか?

 「二桁以上の得点です。あとは、U‐20の代表もアジア最終予選とW杯があるので、選ばれるかどうかはわからないですけど、選ばれた時には自分の名を売るイメージは常に持っています」

――U-20W杯への想いは強いですよね。

 「メチャクチャ強いです。僕は高校3年の時から意識していましたし、この大会を自分の大きな分岐点にして世界に行くというイメージも、自分が絶対に活躍してやるという想いも、常に持っています」

3月に開催されるAFC U20アジアカップウズベキスタン2023もモチベーションを高める要因の1つ

――そのためにはこのチームで自分の立ち位置を築くことが大事ですね。

 「はい。チームとしてはJ1に上がることがすべてで、個人的にはやっぱりしっかりレギュラーになることです。本当に凄いフォワードが多いので、もちろん試合に出られない時もあるかもしれないですけど、そういう競争の中でしっかりとポジションを勝ち獲ることが大事ですし、試合に出続けることは、点を獲り続けることとイコールだと僕は思っているので、しっかりと試合に出続けたいですね」

――改めて千葉寛汰の存在価値を示す上でも、超重要な1年ですね。

 「毎年そうなんですけどね(笑)。でも、もう本当にそれを示すには点を獲るしかないですし、オレから点を獲ることがなくなったら何も残らないので、とにかくゴールにこだわり続けたいです」

Photos: ©TOKUSHIMA VORTIS

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徳島ヴォルティス

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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