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サガン鳥栖が取り組む「PDP」って何だ?川井スタイルを支える4人の精鋭

2023.02.03

その独自性あふれるスタイルで、Jリーグの監督の中でも高い注目を集めているのが、サガン鳥栖を率いる川井健太だ。そして面白い指揮官の元には、面白い参謀が集う。今季の鳥栖は菊地直哉、須和部譲、岩田直幸、小川佳純といった、ひと癖もふた癖もありそうなコーチ陣たちが川井の脇を固めている。そんな彼らが「PDP」という練習メニューへ取り組むに当たり、四者四様に担う役割へ、鳥栖の取材歴も豊富な杉山文宣が鋭く切り込む。

鳥栖の練習で聞こえてくる「PDP」という“造語”

 鳥栖に詳しくない人が鳥栖の練習を見たとき、誰が監督なのかを当てるのはとても難しいはずだ。一般的に監督と言えば、指導の中心にいて事細かく、指示を出す。最も声を出している人が監督であるケースがほとんどのはずだ。しかし、鳥栖は違う。川井健太監督は練習が行われている中心から遠く離れた位置に立って、練習を見ている。それはなぜなのか。指導において、川井監督がコーチに与えている裁量が、極めて大きいからだ。

 鳥栖の練習で最も特徴的で頻繁に聞こえてくるのが「PDP」というメニューだ。これは川井監督によって作られた造語であり、二つの意味がある。一つは「Personal Development Program」。もう一つは「Position Development Program」。川井監督は「『ポジション別練習』と言えばいいだけですが」と笑うが、これこそが鳥栖の練習の最大の特徴だ。

 このPDP、毎回同じ形というわけではないが、最も多いのはポジションごとに4つのグループに分かれるパターン。個人、ポジションごとに特化された練習を支えているのが菊地直哉ヘッドコーチ、須和部譲コーチ、そして今季新たに加わった小川佳純コーチ、岩田直幸コーチ。合計4人のコーチたちだ。

 練習が始まる前には4人のコーチが集まり、その日の練習について、綿密に最終打合せをしている光景が毎回見られる。どうやったら最も選手の成長につながるのか。そこに対して、妥協なく、意見をぶつけ合い、ギリギリまで話し合っている。これこそが「選手が成長できる環境」という近年の鳥栖の好成績を支える力の根源だ。

ヘッドコーチを受諾した菊地直哉の覚悟

 2019年に現役を引退した菊地は20年にトップチームのコーチとして、13年途中から16年途中までプレーした鳥栖に帰ってきた。今季からヘッドコーチに就任することになったが、その背景には川井監督から強化部への進言があった。オフに強化部から打診を受けた際は「自分はまだまだ」と逡巡したが、最終的には「チームのためになるなら」という思いで受諾を決断した。

 ヘッドコーチという立場にも自身はほかのコーチとフラットであると言う。「僕が引っ張るということではまったくないし、コーチみんなが責任感を持って取り組んでいて、自分も勉強させてもらっています。選手に教えるという気はさらさらないし、僕らが成長すれば選手は絶対に伸びるという思い。その環境があるのが鳥栖というクラブ。思う存分、僕らも楽しみながらやらせてもらっています」

 自ら指名したことからもわかるように、川井監督はその姿を高く評価している。

 「菊地コーチについて僕はすごく力を持っていると思っています。彼はもちろん経験もあるし、フットボールに対するセンスがある。これは去年一年間、一緒に仕事をしてみて、良いなと。彼を育てるという言い方はちょっとおこがましいですが、やはり次の(鳥栖の指導者)ってなったときには彼はすごく、まぁ、僕が考えることではないんですが、良い人材なんじゃないかなと。だから、いまはほとんど菊地に任せている。去年は僕が一年間やっていたので、自分なりにエッセンスを加えてやるという作業はおそらく彼にとって初めてだと思う。そこでまた、どういう風に鳥栖というクラブに力を還元してくれるかは楽しみにしています」

 川井監督は能力を認めた上で、菊地自身のさらなる成長にも期待を寄せている。

須和部譲が併せ持つロジカルとパッション

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Profile

杉山 文宣

福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。

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