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AT増加、不安定なPK判定、女性審判員の割り当て…カタールW杯GSのレフェリング、3つのトレンド

2022.12.06

ついに決勝トーナメントへ突入しているカタールW杯。世界各国が白熱の戦いを繰り広げる中で目立つのはアディショナルタイムの増加だが、その他にレフェリングにおいてどのような傾向が見られているのか。グループステージ終了時点での3つのトレンドを攻劇氏に解説してもらった。

 4年に1度の祭典、ワールドカップ。今大会は日本代表のグループEにおける快進撃に代表されるように多くのアップセットが生まれ、目の離せない大会となっている。今回は、グループステージ終了時点までの試合から分かるレフェリングの傾向3つを紹介していく。

トレンド①アディショナルタイム増加

 最も話題となっているのが、アディショナルタイムの増加だ。日本が金星を挙げたドイツ戦で、解説の本田圭佑が“後半アディショナルタイム7分”の表示を見て驚きの声を上げたシーンは記憶に新しい。前半であっても5分以上が追加される場合がほとんどであり、誰もが経験したことのない基準で試合が行われている。

 この背景にはFIFAの思惑がある。FIFAは魅力ある競技・大会をつねに目指しており、IFAB(国際サッカー評議会)が毎年行う競技規則改正にもその狙いが表れている。また、次回から48カ国制となるW杯についても、小国が参加することで世界全体からより多くの関心が集まる大会にしたいということだろう。W杯は世界最大級のスポーツイベントとして多くの視聴者を抱える一方、勝利への執念から巧みに選手が時間を使うシーンも多く目にされてきた。アクチュアルプレーイングタイムが50分に達していない試合もしばしばあり、サッカーが持つ魅力を守るために改善が求められた。

 その結果、アディショナルタイムの確保にたどり着いたわけである。開幕前に行われたメディアカンファレンスで、FIFA審判委員長のピエルルイジ・コリーナ氏は「正確に時間の浪費分を計測する」と明言。ゴールセレブレーションには平均1分30秒ほどかかるとされ、得点が生まれるほど長い時間が追加される可能性を示唆していた。筆者は会見の模様をリアルタイムで見ていたが、ここまで極端に長期化するとは思わなかったのが正直なところである。この判断には世界中で賛否両論を巻き起こしているが、ドラマチックな展開が起こりやすくなるとも捉えられる。今大会はこれまで以上に、最後まで目の離せない展開となりそうだ。なお、12月1日にFIFA公式サイトで公開された同氏のインタビューでは、平均アクチュアルプレーイングタイムが59分に達する見込みが示されている。

アリレザ・ベイランバンドの治療と交代で長時間プレーが中断したイングランド対イランの前半では、14分ものアディショナルタイムが提示された

トレンド②不安定なPK判定

 レフェリングに目を向けると、PK判定の不安定性が気になる。回数が大幅増加したわけではないが、些細な接触でPKとなる事象が多いように感じる。顕著だったのはグループC。全6試合で4回、VAR介入後にPKが与えられた。アルゼンチン対ポーランドではクロスボールに手を伸ばしたボイチェフ・シェチェスニーの手がリオネル・メッシの顔に当たり、PKとなった。昨年の東京五輪決勝スペイン対ブラジルや今夏のACLラウンド16ジョホール対浦和レッズでも、シュートした選手へ遅れて接触したGKのファウルでPKが与えられている。ただ、今回の事象はメッシへ直接強い力を伴って当たったものではないため、厳しい判定だと感じた。

 このような背景には、VAR制度の運用にポイントがあると考える。今大会はVARルームに4人の審判員が入っており、非常に多くのカメラも用意されている。そのため、適切な映像を見つけやすい分、実際の強度やプレーへの影響よりも過剰に接触への印象を抱きやすくなるのではないだろうか。各地域でPKを貰いにいくプレーやわずかな接触で倒れるようなプレーには笛を吹かないような指針が示されているため、今大会で基準を下げたということは考えづらい。……

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Profile

攻劇

現役大学生のサッカー審判員資格保持者。自身の審判活動時はコミュニケーションを大事にするよう心がけている。国内外で話題になった判定や関連情報を収集しながら、Twitterを中心にルール解説やレフェリー情報を発信。競技規則の理解がサッカーファン内で進むことは、レフェリーとファン・サポーターの両方に良い効果があると考えている。贔屓クラブはJリーグのFC東京で、年間チケット保持者。

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