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シティ初の首位は何を意味する? フットボール・マネーリーグ2022を読み解く

2022.05.21

明らかになる、ポストコロナのフットボールビジネスの行方_前編

欧州フットボールシーンが佳境を迎えた3月から5月にかけて、 フットボールビジネスの今後を占う注目トピックが相次いで発表された。 驚きの結果となった『フットボール・マネーリーグ』最新版にはじまりファイナンシャル・フェアプレー(FFP)に代わる新財務規則、そして新たな欧州カップ戦フォーマット――。それぞれの意味や狙いを探るとともに、全体を俯瞰することで輪郭が見えてきたフットボールビジネスの未来像に迫る。前編では、マンチェスター・シティが初めて首位となった『フットボール・マネーリーグ』を、背景事情を踏まえて解釈する。

 今や「ビジネスとしての欧州サッカー」を概観する上で欠かせない基礎資料となっている、世界有数の監査法人デロイトによる欧州主要プロサッカークラブの経営レポート『フットボール・マネーリーグ』。例年より遅めの3月にリリースされた2022年最新版では、マンチェスター・シティが初めて売上高ランキングのトップに立ち、マスコミレベルで大きな注目を集めた。

 デロイトが「フットボール・リッチ・リスト」という名前でこの企画をスタートした1998年(対象は1996-97シーズン)から2019年(同2017-18シーズン)までの21年間、ランキング首位の座はマンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリーというたった2つのクラブが分け合う状況が続いてきた。

 そこに初めてバルセロナが割り込んだのが、コロナウイルスによる世界的なパンデミック前最後の2020年(同2018-19シーズン)。ただしバルセロナは、それまでもユナイテッド、Rマドリー、バイエルンとともに、それ以下のクラブに明確な差をつけるトップ4の一角を占めてきており、1位になったこと自体に大きな驚きはなかった。

 しかし今回のシティは、前年までそのトップ4とは差がついた5、6位にいたところから一気にトップにジャンプアップしたというだけでなく、長い歴史と伝統を誇るトップ4とは対照的に、アブダビという国家資本をバックにこの10年で急速に成長を遂げた新興勢力であることも相まって、大きなニュースとして扱われた格好だった。

「特殊事情」によるイレギュラー

 純粋に単年度のランキングだけを見ると、これは大きな変化のようにも見える。しかし実際のところこの順位は年間を通してコロナ禍の影響下にあり、無観客かそれに近い形での開催が続いた2020-21シーズンの「特殊事情」がもたらしたイレギュラーな結果という側面が大きい。……

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ビジネスファイナンシャル・フェアプレーフットボール・マネーリーグマンチェスター・シティ

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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