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VAR、判定自動化にも限界がある。 規則改正史とテクノロジーから考えるオフサイドの未来(後編)

2021.10.31

2021年10月10日に開催されたUEFAネーションズリーグ決勝、スペイン対フランス(1-2)の80分に生まれたキリアン・ムバッペの優勝弾を機に、あらためて注目を集めたオフサイドの解釈。争点となったのは、オフサイドポジションに飛び出したムバッペにスルーパスが通る直前のエリック・ガルシアのボールタッチが「意図的なプレー」に該当するとみなす、現行競技規則の考え方だ。果たしてこの解釈はフットボールにおけるオフサイドの本来の目的に適うものなのか。近年のオフサイドをめぐる競技規則改正の歴史と今後予想される展開を、SUSSU氏が同じく近年注目を集めているテクノロジーの観点も交えながら考察する。 

後編では、近年増加傾向にあるVARを伴う試合や近く導入が期待される半自動判定を含め、オフサイドと関わりのあるテクノロジーについて論じたい。

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レフェリングとテクノロジーの関係

 今でこそ、フィールドでは選手が様々なデバイスを装着し、ベンチではスタッフがタブレットを眺めながら分析を行うなど、フットボールとテクノロジーの関わりはフィールドレベルでより密接なものとなっている。しかし、かつての競技規則では、時間を計測するための器具をつけることを許された審判員のみが、フィールド上にテクノロジーを持ち込める唯一の存在であった。レフェリングとテクノロジーの関係は、技術の発展と判定行為の依存度の高まりとともに、図1に示す4段階に分類することができる。

 2021年10月現在、レベル4に相当する完全自動判定は実現していない。ゴールラインテクノロジー(GLT)は同レベルに該当すると考える方もいるかもしれないが、GLTが提供するのは「ゴールフレーム内でゴールラインを超えたか否か」であり、直前の違反の有無(攻撃側のオフサイドやファウル)を含めて得点か否かを決定しているのは審判員である。VAR(ビデオアシスタントレフェリー)を伴う試合においても、テクノロジーそのものは映像検証という遡及性を提供しているに過ぎず、判定そのものは審判員のコミュニケーションを介して人によって決定される。この点において、フットボールの世界においてレフェリングの完全自動化は、如何なる判定においても実現していないとするのが筆者の立場だ。

 完全自動化が実現しないのは、フットボールの競技構造そのものが主観による判断を前提にしているからに他ならない。例えば競技規則の第12条に記載された直接フリーキックまたはPKに繋がるファウルは、その多くが「不用意に、無謀に、または過剰な力を用いて」定められた行為に至ることが要件であり、物理的な接触の有無や強度のみで判断されるものではない。前編で述べたUEFAネーションズリーグ決勝のエリック・ガルシアのボールタッチにしても、意図的なプレーか否かの見極めは人でなければ難しい。将来的には主観による判断機能をデータに基づく経験則によって身につけたロボティクス・レフェリーが登場する可能性もあるが、その判断基準がブラックボックス化した時、果たして人による判定と比較して大きなメリットを享受できるか否かは不透明である。

VARがもたらした遡及性と競技規則の客観基準化

 テクノロジーとレフェリングの関わりにおいてVARの存在を無視することはできない。重大な誤審を大幅に減らす一方、そのプロセスについては賛否両論あるこのソリューションは、従来のフットボールにはない2つの要素をもたらした。

 1つは遡及性。1度下した判定は原則として取り消すことができないフットボールにおいて、客観的にチェック&レビューする機会を提供している。これはVARを伴う試合の最大の特徴にしてメリットであるが、何をどこまで遡れるか、そもそも遡るべきであるかは依然として議論を呼んでいる。……

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VARオフサイド文化

Profile

SUSSU

1988年生まれ。横浜出身。ICTコンサルタントとして働く傍らサッカーを中心にスポーツに関わる活動を展開(アマチュアチームのスタッフ・指導者、スポーツにおけるテクノロジー活用をテーマにした授業講師等)。現在は兼業として教育系一般社団法人の監事も務める。JFAサッカー審判資格保有(3級)。

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