帝京大学×ボルシア・ドルトムント。日本初の学術研究パートナー契約がもたらしたもの
この記事は『帝京大学』の提供でお届けします。
2018年6月、帝京大学が“日本初”の学術研究パートナー契約をブンデスリーガに属するボルシア・ドルトムント(以下、BVB)と締結した。この契約で帝京大学はBVBの経営ノウハウを学生が直接学べる環境を提供することが可能になった。契約締結から約3年が過ぎ、コロナ禍で大学、サッカー界を取り巻く環境も大きく変化する中、両者はこのパートナー契約をどのように捉えているのか。
現地ドイツで体験するスポーツビジネスの最前線
「帝京大学の教育指針として『実学・国際性・開放性』があるのですが、これを体現する教育スタイルをずっと模索していました。学生たちにスポーツビジネスを生で感じてもらう機会を提供できないかと……」
BVBとの学術研究パートナー契約の経緯を語るのは、帝京大学でスポーツ経営学を教える片上千恵准教授。NHK松山放送局キャスターなど、メディア職に従事した経験を持ち、Jリーグの新人研修等におけるメディアトレーニング講師も務める。
片上准教授の所属する帝京大学経済学部は「経済学科」「国際経済学科」「地域経済学科」「経営学科」「観光経営学科」の5学科で構成されており、同学部の学生は横断的にすべての学科の授業を受講できる。これは「複合的な視点で物事を考えられるセンスを磨くため」という大学側の狙いがあり、BVBとの契約もその一環である。
「BVBとの契約は経済学部の大山高准教授とともに、教員主導で進めてきました。学生がドイツで1週間程度研修を受けられるプログラムでは現地スタッフから直接、デジタルマーケティングや国際化戦略の講義を受け、下部組織の練習施設やスタジアム見学などを通して、サッカービジネスを学びます。また、研修期間内にはホスピタリティラウンジでの試合観戦もスケジュールされていて、学生は自分の名前が入ったユニホームを着用し、選手の面会イベントにも参加。現地のホスピタリティを体験できます」
パートナー契約最大のメリットであるドイツ研修では、参加者は帰国後、500人程度が参加する授業「スポーツビジネス概論」でレポート発表を行う。学生たちは事前研修の段階からグループごとにテーマを決め、それぞれ準備を進めたうえでドイツに出発する。テーマはBVBのブランディングやスタジアムビジネスに関するもの、ドイツのサッカー文化や地域総合型クラブに関するものなど様々。BVB側の協力もあり、スタジアム前で来場者へのアンケート調査、クラブスタッフやスポンサー企業へのインタビューも可能だ。過去には片上准教授の専門領域である選手のメディア対応をテーマとしたレポートが教員の研究教材になったケースもある。そんなクオリティの高い発表が評判を呼び、定員30名のドイツ研修には毎回多数の応募者が集まってくる。
学生の研修へ取り組む姿勢はBVB側も評価している。BVBマーケティング部門の責任者であるカーステン・クラマー氏は2019年まで同クラブに在籍した香川真司の振る舞いから「日本人は真面目で勤勉」という印象を持っていたが、学生との交流を通じ、その考えをさらに強くしたという。
「帝京大学の学生は学びへの意識が高い。人の話をちゃんと聞けるのは重要なこと。彼らはしっかりメモを取るし、興味深い質問もしてくれる。情報を聞いて消費するのではなく、自身の成長の糧にしようとしている姿勢はドイツの学生にもないものです」
コロナ禍におけるパートナー契約の変化
パートナー契約の成果として就職活動への貢献も挙げられる。ドイツ研修での経験をきっかけにスポーツ業界への就職を志す学生は多い。スポーツ業界への就職は狭き門であるが「この研修を仲介しているH.I.S.に就職して、スポーツツーリズムに携わっている卒業生がいます。あとはスポーツ系の映像制作会社や広告代理店等へも毎年数名が就職していますね」と、片上准教授はその成果を語る。
近年、学生のスポーツビジネスへの関心は高く、多くの大学が同テーマの授業を開講している。ただ、教育指針である『実学・国際性・開放性』の下、BVBと提携し、欧州サッカー界の最前線にいるクラブスタッフから直接学べる環境を提供している帝京大学は数ある大学の中でもひときわ存在感を放っている。コロナ禍で現地研修が難しい現状においても「オンラインで学ぶ“バーチャル”留学を考えています。バーチャルスタジアムツアーや、オンラインだからこそ提供できる内容を検討中です」と抜かりない。
学生からの期待も高い。2021年5月19日にクラマー氏をゲストに招いてオンライン開催された講演会『欧州サッカービッグクラブ経営者に聞く 働き方とリーダーシップ』では、参加者からの質問が殺到。教員側が想定していた以上の質問数となったため、途中で打ち切らざるを得なくなるという事態に。それでも参加者アンケ―トによる満足度は9.34(10点満点)と、参加者にとって充実した時間となったようだ。
片上准教授は「(オンライン開催となった講演会について)ドイツ研修は人数を限定して行ってきましたが、今回は全学部の学生を対象として開催しました。BVBとのパートナー契約の恩恵を学部に関係なく受けてもらえるという意味ではこういう形(オンライン)も意義があったと思います」と、パートナーシップの新様式について手ごたえを口にする。
クラマー氏も「我われのナレッジ(知識)やノウハウを日本の学生に伝える研修の場は、BVBの業務内容を整理する上で良い機会になっています。それに、大学との提携で日本の若者の声を直接聞けるのはマーケットを知る上で大変重要」と、パートナー契約が双方にメリットがあるものと捉えている。
新型コロナウイルスの影響は依然として大きく、大学、サッカー界ともに手探りの状況が続いている。そうした中でも「前を向きつづけるメンタリティが大切」と語るクラマー氏から帝京大学、そして、日本の学生へのメッセージをもらった。
「サッカーは大観衆の前でやるものだと思っています。熱狂的な雰囲気こそ大切であると私は考えます。きっと、そういう時代は戻ってくる。そのためにコロナ対策をし続けるし、戦い続けます。スポーツ業界を目指す学生のみなさんにもそういうメンタリティを持って欲しい。そして、いつか一緒に働ける時がくることを楽しみにしています」
Photos:Teikyo University
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime