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「ガンバ・スタイル」を探す旅。宮本監督の苦悩の4シーズンと未来への選択肢

2021.05.20

ガンバ大阪は5月13日付で宮本恒靖監督との契約解除を発表。2018シーズン途中から始まったクラブレジェンドとのプロジェクトは終わりを迎えた。ガンバ大阪の試合を毎試合分析してきたマッチレビュアーは、この4シーズンをどう分析するのか。ピッチ上から見えた宮本ガンバの総括と今後の展望をお願いした。

再度挑んだ「ガンバ・スタイル」への回帰

 2020年、J1リーグ2位・天皇杯準優勝という、就任以来最高の成績でシーズンを終えた宮本ガンバでしたが、その内実は「堅守をベースにした現実的なサッカー」であり、監督自身がシーズン総括の場で述べていた通り、ガンバ大阪がクラブとして標榜する「ボールを保持しながら相手を圧倒し、ゴールを奪う」サッカーとは大きな乖離がありました。

 その反省を受けて、2021シーズンのガンバはボールを保持しながら試合をコントロールする方向にシフトしていきます。前シーズンのサッカーと比較すると、大きな変化は2つありました。

 1つは「ハイプレスによる即時奪回」。

 2020シーズン後半のガンバは、まず[4-4-2]のブロックを構えて「危険な中央を迂回させ、サイドにボールを誘導する」というスタンスを取っていましたが、2021シーズンにおいては、前線の枚数を増やす[4-3-3]のフォーメーションが導入されました。このシステムで新たに組み込まれた、ウインガーがサイドのパスコースを消しながら内側に追い込んでいく「外切り」のプレッシングにより、相手の攻撃を中央に誘導し、チーム全体で高い位置でプレッシャーをかけボールを奪い切る狙いが見て取れました。

 もう1つの変化は「GKを絡めたビルドアップ」。

 中盤のアンカー落ち(いわゆるサリーダ・ラボルピアーナ)を制限し、相手の1stプレスに対してライン間で受けるアンカーをちらつかせつつ、幅を広く取ったCBとのパス交換で相手のプレスをいなしボールを前進させるビルドアップパターンの導入で、安定したボール保持からの前進を目指していました。

2021シーズン序盤戦で宮本監督は、2列目が本職の小野瀬康介を右サイドバックに抜擢。ビルドアップでは中盤に移動する偽サイドバックのような役割を任せるなど、試行錯誤を重ねていた

 これらの変化により、ボール保持率は2020シーズン平均の48.1%から51.9%(Football Labより引用)と上昇しましたが、それがシュート・ゴールといった結果にほとんど結びついていないのが2021シーズンの宮本ガンバでした。

 ボールをビルドアップの出口まで前進させられたとしても、そこから相手DFラインの裏を取る、ライン間で前を向いて加速する、縦・横のドリブル突破でギャップを作るなど、「崩し」の局面におけるアクションが少なくかつ散発的で、ボールがノッキングしてしまうシチュエーションが多く見られました。

 その傾向はスタッツにも現れており、シュート数は前年平均の13.3本に対して9.7本、ペナルティエリア侵入数は前年平均の12.7回に対してわずかに8.3回と大きく悪化しています(いずれもFootball Labより引用)。「ボールは持てるが、ゲームは動かせない」のが、2021シーズンの宮本ガンバだったと思います。

 シーズン序盤に発生したチーム内での新型コロナウイルスクラスター化によるチーム活動停止の影響は考慮されてしかるべきですが、いずれにせよ「崩し」のシチュエーションに目立った改善が見られないまま、宮本ガンバは終焉を迎えます。ただ、この結果だけをもってすべてを”失敗”と断じてしまうのはいささか乱暴です。これまでの取り組みを振り返り、何ができて何ができなかったのかを検証しておくことは、クラブの今後にも価値のあることではないでしょうか。

理想と現実のはざまで揺れた4シーズン

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ガンバ大阪戦術

Profile

ちくわ

大阪市在住。競技サッカー未経験ながら、ブラジルW杯後長谷部主将の「Jリーグを観てくれ」という言葉を素直に受け入れた結果その魅力にのめり込み今に至る。ガンバ大阪のサポーターであり定期的にマッチレビューを執筆。本業は意識低めの経営企画。心のバンドはナンバーガールとThe Flaming Lips。人生で大切なことはすべて志村貴子の漫画で学んだ。

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