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素顔はどこまでも人間らしく――ディエゴ・マラドーナが我われに残したもの

2020.12.10

11月25日、突如としてもたらされたディエゴ・マラドーナの訃報は、世界中のサッカーファンに悲しみをもたらした。サッカー選手・マラドーナではなく、人間ディエゴ・アルマンド・マラドーナが見せた素顔は、「堕ちた英雄」のイメージからは程遠い、温かみに満ちたものだった。

 ディエゴのことだ。
 どんなに叩きのめされても、もうこれで終わりとは思うな。
 イングランドの盗賊どもをピッチにぶっ倒したまま置き去りにして辱めたことを思い出せ。
 手が眼力より早いことを証明してみせたことを思い出せ。
 そして4人に囲まれながら、魔法の左足にボールをくっつけたまま、
 まるで嘲笑うように舌を出して飛び出してきたことも。
 それを覚えておくがいい。

 今から16年前、ディエゴ・マラドーナが高血圧と心疾患から危篤状態に陥った時、アルゼンチンの著名風刺画家ロベルト・フォンタナロサ(故人)が詩人としての才能を発揮したこの一文に我々マラドニアーノ(マラドーナを愛する人)たちは安堵感を抱いた。

 マラドーナが死ぬはずはない。何度も逆境に立ち向かい、そのたびに勝ち誇った顔ではい上がり、復活を遂げてきた怪物なのだ。そんな信念が、マラドニアーノたちの心の底にいつの間にか根付いていた。……

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ガジャルドディエゴ・マラドーナボカ・ジュニオールリーベルプレート

Profile

Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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