【バルディ分析】ゲーゲンプレッシングが攻撃を加速させる。RB大宮に浸透するレッドブル流の「リスクを恐れない哲学」
レナート・バルディのJクラブ徹底解析#22
RB大宮アルディージャ(後編)
『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブとイタリア代表のアナリスト兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はロベルト・マンチーニのイタリア代表でチーフアナリストを務める「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。
第21&22回は、レッドブルの哲学の下で新たなチーム作りを進めるRB大宮アルディージャ。後編では、ゲーゲンプレッシングと即時奪回を軸とした守備、そしてそこから生まれる攻撃のメカニズムに迫る。相手を押し込み、前からボールを奪いに行く一方で、プレスを外された際には背後の広大なスペースを突かれるリスクもある。それでも前に出続けるのはなぜか。強みと弱点の両面から、レッドブル流のゲームモデルと、その根底にある哲学を解き明かす。(本文中の数字は10月7日の取材時点)。
奪い返すことが、もう1つの攻撃。ゲーゲンプレッシングの威力とリスク
――前編ではボール保持局面を分析しました。後方でのボール循環で相手のプレスを誘引し、それによって生まれた前方のスペースを縦への加速で一気に攻略していくメカニズムが、攻撃の大きな強みになっている一方、いったん守備ブロックを整えた相手の攻略には手こずっている面がある、しかし大宮にはもう1つ、大きな攻撃の武器がある、ということでした。その武器とは、というところから始めましょう。
「その武器とは、ゲーゲンプレッシングとそこからのショートトランジションです。これはこのチームのアイデンティティとして最も強い部分の1つです」
――レッドブルのトレードマークですね。
「はい。大宮のゲーゲンプレッシングは、かなり効果的なレベルに到達しています。タイミング、ボールホルダーと周囲に対する寄せ方のどちらも良く、相手がボールをスペースに持ち出すことを許さない。これが機能している限り、相手をこちらのゴールから遠ざけ、敵陣内にボールを置いた状況で戦い、時には直接決定機を作り出すことができる。それが生み出す攻撃のボリュームは、自陣からのボール保持で前進して作り出すそれと同じくらいの重要性を持っています。
前編でも触れましたが、現代サッカーにおいてローブロックの攻略は最も難しい課題の1つです。マンツーマンのハイプレスを回避してボールを持ちだす術は多くのチームが身に着けつつあります。しかしローブロックをこじ開けるのはどんなチームにとっても難題です」
――マンツーマンハイプレスの流行が一段落して、ミドルプレスやローブロックを選ぶチームが増えてきているのもそれが理由ですよね。
「ええ。攻撃側に与える困難がより大きい。最後の20~25mにスペースを見出せず、相手を包囲して攻めることになりますが、そこで時にはバランスを失い、ボールを奪われた時に危険なトランジションにさらされる可能性もある。心理的にも、相手を押し込んでローブロックを攻めていると、気持ちが攻撃に向き過ぎて、守ることに対する意識が薄れるというか忘れてしまうような感じがあります。これは、我々イタリア代表の最近の試合でも認識した1つの感覚です。守備の観点から言うと、ローブロックを攻めている時が、危険な状況が最も生まれやすい。そこに意識が向かった状態で長い時間ボールを保持していると、危険を察知するアンテナの感度が鈍ってしまう、と言えばいいでしょうか」
――最初のベルギー戦(9月26日/UEFAネーションズリーグ)でルケバキオにカウンターから2点目を喰らった場面はその典型ですね。トルコ戦でもそういう場面がありましたし。その場合、予防的マーキングをしっかりしておけば大丈夫なのでしょうか。
「いえ、時にはそれだけでは足りないこともあります。ペナルティエリアのすぐ外、中央のゾーンをうまく押さえておかなければ、そこから相手が飛び出して来るからです。相手FWを予防的マーキングで見ていたとしても、そうなったら50mの背走を強いられることに変わりはありません。同数でもこちらが不利な状況です。だから、逆説的ですが、中央のゾーンを押さえて相手との距離を詰めておくことの方が、最後尾の予防的マーキングよりもむしろ重要かもしれません。
話を戻すと、大宮が最も大きな困難に直面したのは、まさにそういう場面でした。ネガティブトランジションです。相手のローブロックを攻めあぐねる中でボールを失い、ゲーゲンプレッシングが効かずに中央からボールを持ち出される。両SBが高い位置まで進出していることで、2CBが広いスペースをカバーしなければならず、詰め切れずに背走するしかなくなる。いくつかの被決定機はそこから生まれています。アンカーの加藤玄は、常に的確なポジショニングでCBペアの前をカバーしていましたが、いくつかの状況では、それだけでは相手のトランジションを食い止め切れませんでした」
――ゴール前に思い切って人数をかけるのは、ボールロスト時のゲーゲンプレッシングの密度を確保するためという側面もありますよね。ただその分、ゲーゲンプレッシングを外された時に直面するリスクは小さくない。
「はい。アグレッシブに前に出るハイライン守備を徹底したゲームモデルとしては、セリエAではビンチェンツォ・イタリアーノ監督(現ベシクタシュ)時代のフィオレンティーナという例がありました。彼らは被決定機、被シュート数はリーグで最も少ないチームでしたが、同時にシュート1本あたりのxGは最も大きかった。ゲーゲンプレッシングが外されてカウンターを許すと、本当に危険な状況が生まれるからです。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
