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「中途半端なアプローチは通用しない」。ハイプレスが変える現代フットボールの新しいセオリー

2026.10.18

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#33

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第33回は、ブライトンがアーセナルを3-0で下した一戦を手がかりに、ハイプレスの進化を読み解く。偽SBへのマンツーマンによって相手のビルドアップを封じる仕組みとは何か。そして、プレミアリーグの強豪でさえ自由にボールを運べなくなった背景には、どのような戦術的変化があるのか。ハイプレスの標準化が攻守の駆け引きと選手に求められる能力をどう変えているのか、現在進行形の戦術トレンドの実態に迫る。

 2024年夏にプレミアリーグ史上最年少の常任監督となったファビアン・ヒュルツェラーは昨季、アーセナルを悲願のプレミア制覇へ導くことになるミケル・アルテタとの第18節(2-1)、第29節(0-1)での采配対決で、いずれも敗れていた。しかし33歳の指揮官は若く野心的なブライトンを率いて3年目を迎えた今季の第5節、スタートダッシュに成功した王者に3-0で快勝することで、見事にそのリベンジを果たしている。今回はブライトンがアーセナルを苦しめたハイプレスのアプローチを紹介しながら、欧州トップリーグにおけるハイプレスの価値について再考していきたい。

偽SBを逃がさない。ヒュルツェラーが仕掛けたマンマークの罠

 本職セントラルでボールを奪う能力に優れたパラグアイ代表MFディエゴ・ゴメスのサイド起用は、神出鬼没の左SBリッカルド・カラフィオーリを最大限に警戒したヒュルツェラーの策だった。ワイドアタッカーにケガ人が続出している苦しい台所事情による影響もあったが、本来セントラルMFであるゴメスをサイドに起用することによって中央の守備力は大幅にアップ。カラフィオーリはボローニャ時代も積極的な攻撃参加で知られた選手であり、DFラインのどのポジションで起用されてもビルドアップやボール運びで貢献する現代的なプレーヤーとして知られている。イタリア代表でも注目を浴びる彼こそが、アーセナルの隠れたキーマンだ。

 アーセナルはビルドアップが停滞した時、中央のボランチだけでなくトップ下のマルティン・エデゴーが下がる形と、カラフィオーリが偽SBとしてボールを受ける形の2つのオプションを用意しており、ハイプレスに対する逃げ道になるはずだった。この偽SB的な大外から中央の移動はマークの受け渡しを強要する狙いがあり、相手がボランチを両方マークしたとしても同時に抑えられないスペースでボールを受けることでプレッシングを緩和することが狙いだ。しかし、ブライトンはサイド起用のゴメスがカラフィオーリを受け渡すことなくピッチのどこに移動してもマンツーマンで追い回すことで、その前進を封じることに成功した。

 どちらかというとこれまでは脇役だった偽SBが、その警戒の薄さを利用して中央をサポートする流れを、ブライトンは意図的に潰しにいく。それによってボランチ2枚とDFラインの選択肢は極端に削られ、難しいボールを狙うしかなくなってしまった。その結果としてブライトンは苦し紛れの縦パスを容赦なく回収、そこからショートカウンターで決定機を作り出した。前線の選手たちは献身的に連続でボールを追い、アーセナルの選手に迷いが生まれれば複数人で取り囲んでいく。

 この偽SBへのマンツーマンは、アーセナルのようなチームを自陣に縛るには有効な手段になるかもしれない。

……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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