「選手の次は、オーナーになる」。元トッププレーヤーがクラブ経営に参入する新潮流
CALCIOおもてうら#74
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、ポルトガルのエストレラ・アマドーラを買収した国際コンソーシアムに、トーマス・ミュラー、マッツ・フンメルスら4人の元バイエルン勢が出資者として名を連ねたニュースを入り口に、欧州サッカーで進みつつある「元トッププレーヤーのオーナー化」を考える。デイビッド・ベッカム、ジェラール・ピケ、ロナウド、キリアン・ムバッペ、そしてコモのセスク・ファブレガスやティエリ・アンリらの事例を追いながら、その背景にあるプロサッカーの産業化と、これから生まれる新しいクラブオーナー像を解き明かす。
エストレラ買収にみる、「元/現役選手=オーナー」という新潮流
8月25日、ポルトガル1部のエストレラ・アマドーラが、トーマス・ミュラー、マッツ・フンメルス、ヤン・ゾマー、リュカ・エルナンデスという4人の元/現プロサッカー選手(いずれもバイエルン所属歴あり)を出資者に含む国際コンソーシアムが発行済み株式の90%を取得し、クラブオーナーとなったこと、クラブの会長に、バイエルンで10年間チームマネジャーを含めた35歳のヨハネス・メスマングが就任したことを発表した。
プレミアリーグを筆頭に、今や欧州主要リーグでは地元資本よりも外国資本、とりわけファンドやコンソーシアムなどプロサッカークラブを投資案件として捉える機関投資家が保有するクラブが多くを占めるようになっている(例外は50+1ルールがあるドイツ、オーストリア)。筆者の暮らすイタリア・セリエAも、20クラブ中12クラブが外国資本(うち10クラブが北米資本)。ポルトガルリーグも、これで18クラブ中半分の9クラブが外国資本となった。
このエストレラの案件で興味深いのは、コンソーシアムを構成する出資者の中に、現役あるいは引退後間もないトップレベルのプロサッカー選手が名を連ねているところだ。
これまで、トッププレーヤーがプロサッカーの世界に関わり続けるためのセカンドキャリアといえば、監督・コーチなどのテクニカルスタッフ、スカウトやスポーツダイレクターなどの強化スタッフ、あるいはコメンテーターや解説者などマスコミ畑への転身くらいしか選択肢はなかった。トップレベルに到達するためには、監督として成功するか、スポーツダイレクターを経てマネジメントまで統括するゼネラルダイレクターになるかくらい。いずれにしてもクラブに雇われる側の仕事である。しかしここでは、元バイエルンの4人が出資者としてクラブを保有する側に回っている。
ただし「ミュラーやフンメルスがクラブを買収してオーナーになった」という言い方はやや不正確だ。コンソーシアムを主導しているのは、アディダス創業者アドルフ・ダスラーの一族につながる投資会社LEADとその傘下にあるADvantage(いずれもスポーツやヘルス関連のスタートアップに投資してきたベンチャーキャピタル)。ここに、AIや機械学習、データ分析などを専門とするテック企業KI Group、そして元バイエルンの4人が、投資パートナーとしてだけでなく、クラブの運営にそれぞれの専門性を活かす形で関与するとされている。各自の出資比率は非公表だが、バイエルンを中心とする人脈の中で、異なる専門性と同じ野心を持った主体の利害がうまく一致して、1つのプロジェクトが持ち上がり成立したという経緯だろう。会長に就いたメスマングが彼ら元/現役選手たちと同世代だという事実は象徴的だ。
ベッカム、ピケ、ロナウド。スター選手は「クラブを持つ側」へ
元(あるいは現役の)トッププレーヤーがオーナーや出資者としてプロクラブの経営に関与するケースは、これまでにもいくつかある。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
