相手の懐を鋭く突き刺す、仙台の槍。「ちゃんと悔しかった」3年目の正直で、有田恵人が真価を示すシーズンへ
ベガルタ・ピッチサイドリポート第39回
有田恵人が勝負の3年目を迎えている。2024年に中央大学から加入したスピードスターは、プロになってからここまでの2年半の間、度重なる負傷の影響でまだ真価を発揮するまでには至っていない。ただ、そのポテンシャルは誰もが認めるところ。改めて2026/27シーズンに懸ける強い想いを、村林いづみが掬い取る。
インタビューの最後に「これだけは伝えたいということはありませんか?」と聞いてみた。俯いて、約10秒沈黙。長い前髪で顔を隠したまま、ベガルタ仙台・有田恵人の肩が小さく揺れた。
「でも……ちゃんと悔しかったです。ちゃんと悔しかったし、なんで自分だけなんだろうと思ったことも何回もあるし……。それでも、全く試合に絡んでもいないのに、“23”のユニフォームを持ってきてくれた人がいた。応援してくれるその姿に、逆に辛くなったこともありました」
ひと言ずつ、思いを絞り出した。大きく息を吸って、すっと顔を上げると、こう続けた。
「でも、やっぱり自分の意識をこれだけ変えられれば、もうけがをしなくなれば、それは自分の大きな自信にもなる。もしかしたら、その姿は他の誰かの希望になるかもしれない。いろんな人が応援してくれているのもわかっています。そういう人たちのためにも、今シーズンは絶対試合に出て活躍したい」
物腰は柔らか。ふんわりしているように見えてしまう。怒りや苦しい胸の内を、みんなの前で露わにするタイプではない。思いを内に秘める分、ちょっとわかりづらさもあったかもしれない。でも、有田恵人は、「ちゃんと悔しかった」。それを乗り越え、自覚を持って、今ここに立っていると知って欲しかった。前髪の奥から訴える目に、ギラリとした光を感じた。そんな彼が今度こそピッチで自らの武器を示す。強く前を見て進む、2026/27シーズンの開幕が近づいている。

熱狂のユアスタで、一人だけ喜べなかった優勝
2026年6月6日、ベガルタ仙台のホーム・ユアテックスタジアム仙台は歓喜に揺れた。明治安田J2・J3百年構想リーグ優勝、マイクで吠え、舞い踊る森山佳郎監督。120分+PK戦まで戦い、ピッチ内外で様々なドラマがあった。疲労困憊だった出場選手も、優勝の喜びにはしゃいだ。壇上でシャーレアップをする仲間の姿を、有田恵人はピッチサイドから静かに見つめていた。
「あの場で、一人だけ喜んでいなかったんじゃないかな。申し訳ない気持ちでした。この気持ちのまま、みんなと並んでスタジアムを1周していいのかなって」
ベガルタ仙台在籍の32人中、GK4人を含む実に29人の選手が百年構想リーグでピッチに立った。有田はピッチに立つことが叶わなかった選手の中の一人だった。2024年に中央大学から仙台に加入すると、得意のドリブル突破、脅威のスピードでJ2リーグを席巻する、はずだった。しかし度重なるけがで、有田はこの2年半、幾度も長期のリハビリを余儀なくされた。
2024年はリーグ戦12試合に出場。主力となりかけた時に、左半膜様筋(ハムストリングスの一部)肉離れの診断。2025年、2026年とキャンプで好調を示すも、2025年は開幕直後、2026年百年構想リーグは開幕直前で負傷。シーズンを通して活躍することはできていない。本当の有田を、私たちはまだ知らない。

唯一、達成感を得られた練習試合の15分
――オフ明けのキャンプもフルメニューを消化できていますね。新シーズン、周りの期待はどう感じていますか?
「自分は楽しく、幸せを感じながらサッカーをやってます。まだ、特にプレッシャーを感じることもないですね」
――百年構想リーグの最終盤、5月27日に全体練習に合流しました。
「5月最後の練習試合・順天堂大学戦に15分だけ出させてもらいました。そこを目標にリハビリをしていました。それを達成できたこと。あの試合に出られたか、出られなかったかで、多分、今回のキャンプへの気持ちも違ったと思います。そこでけがをすることなく15分やれた。他の人から見たら『たった15分か』と思うかもしれないですけど、自分の中では百年構想リーグの中で唯一、達成感があった瞬間。自分の中で大きな練習試合となりました」
――試合は本当に久しぶりだったと思いますが、どんな15分でしたか?
「怖かったですね。自分がけがをしたシチュエーションというか、そういうシーンが今でもフラッシュバックすることもあります。ゲームの最後には、まるでけがをするよう誘われているのかなってくらい、僕のところにボールもきたし……」
――接触もあり、ちょっとヒヤッとした瞬間もありましたよね。
「はい。でも、今考えれば、あの試合はやっていて良かったと思いますね」

――その15分を経て、百年構想リーグ後のオフもほぼない状態で、キャンプをし、ここまで向かってきました。どういうふうに準備してこられましたか?
……
Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。
