“5年で109発の働き者”と“伊東&南野の相棒”。フランスで成長しW杯で爆発する北米の点取り屋に注目!
おいしいフランスフット #29
1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第29回(通算187回)は、ともにリーグ1で名を上げ、母国開催のW杯で初ゴールを挙げた2人のストライカー、カナダ代表のジョナサン・デイビッド(26歳)とアメリカ代表のフォラリン・バログン(24歳)の成長物語。
無名からの飛躍「努力はきっと報われる」
W杯も開幕から10日が経過した。
6度目の出場となるディフェンディング王者アルゼンチンの大エース、リオネル・メッシが初戦でいきなりハットトリックと千両役者ぶりを発揮しているが、もう一人、今大会でハットトリックを達成したのが、カナダ代表のFWジョナサン・デイビッドだ。
現地時間6月18日に行われたグループB第2節の対カタール戦。
彼のシュートから生まれたセカンドチャンスを相棒のFWサイル・ラリンが決めて先制すると、デイビッドは相手に当たってディフレクトしたボールを浮いたまま叩き込んで1点目。続いて、GKが弾いたボールをゴール正面で押し込んで2点目。そして3点目は、左足を振り抜きパワフルなシュートをネットに突き刺した。
カタールが前半と後半で計2人の退場者を出し、試合終盤はカナダの一方的なワンサイドゲームになっていたとはいえ、いずれのシュートシーンも、ボールがこぼれてきた絶妙な位置にいて、素早いモーションから的確に的を射止めたもの。この大舞台にしてその決定力は素晴らしい。
今回で3度目のW杯出場となるカナダは、初回のメキシコ大会(1986年)、前回のカタール大会(2022年)ともにグループステージ3戦を全敗で終えていたから、初戦でボスニア・ヘルツェゴビナにドロー(1-1)と初めて勝ち点を獲った後の、この初勝利(6-0)はまさに歴史的。しかも会場はカナダのバンクーバー。地元サポーターの歓喜の様子が目に浮かぶ。
そんなホスト国を牽引する26歳のデイビッドは、リーグ1ウォッチャーにとってはお馴染みのストライカーだ。
2020-21シーズンの開幕を迎えようとしていたタイミングで、リールに最後に加わった新戦力が彼だった。ベルギーのヘントから加入した当時20歳のカナダ人は、フランスではほぼ無名だったから、その彼に強豪リールがクラブ史上最高額の移籍金2700万ユーロを投じたことは大いに話題となった。
ちょうど急成長中のナイジェリア代表FWビクター・オシメーン(現ガラタサライ)がナポリに引き抜かれたところで、デイビッドはその後任として迎えられた。ちなみに『ウェストフランス』紙によれば、リーグ1では1950年以来となるカナダ人選手とのことだった。
合流して数日後に迎えた開幕戦でさっそく先発イレブンに名を連ねたが、「いったいどんな活躍を?」という期待をよそに、そこから第10節までの間、デイビッドはネットを揺らすことができなかった。第8節からはベンチスタートに降格し、出場時間も減ってしまった。
ところが、11月の代表ウィーク明けの第11節で再びスタメン起用されると、そのロリアン戦でついに待望の初ゴールをマーク。1アシストも記録し、チームを快勝(4-0)に導いた。
のちのインタビューで、デイビッドは入団当時をこんなふうに振り返っている。
「クラブは高額な移籍金で僕を迎えてくれたけれど、最初はなかなか点が取れなかった。それでもサポーターはずっと支えてくれた。監督も『ゴールを決めていなくても、お前は良い働きをしてチームを助けてくれているぞ』と言ってくれた。それで自信を持ち続けることができた。それに、努力すればきっと報われると信じていたんだ」
その後はコンスタントに得点を挙げて、当時トルコ代表だったチーム内得点王ブラク・ユルマズの16ゴールに次ぐ13ゴールに4アシストと、初年度にして期待に応えた。
まだ実力がよく知られていないカナダ人の若手をベルギーから引き抜くというのは、フロントにとってもある意味“賭け”だったと思うが、それを実行したのが、現在はパリ・サンジェルマンのアドバイザーであり、今のCL優勝チームを作り上げた陰の功労者ルイス・カンポスと聞けば納得だ。
そしてこのシーズン、リールはクリストフ・ガルティエ監督(現ネオム)の下、強豪パリ・サンジェルマンを抑えてリーグチャンピオンに輝いたのだった。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
