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【バルディ分析】「日本はボールを持たずに試合を支配した」オランダ戦で示した森保ジャパンの戦術的成熟と課題

2026.06.17

北中米W杯日本戦徹底解剖#3

北中米W杯へ向けて進化を続ける森保ジャパン。その戦いを『森保JAPAN戦術レポート』(小社刊)の著者・らいかーると氏と、ボローニャやミラン、イタリア代表などで分析官兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師も務めるレナート・バルディが徹底解剖。配置、狙い、駆け引き――日本代表戦に潜む戦術の深層を、それぞれの視点から読み解く。

第3回は、バルディによるオランダ戦分析。日本が2度のビハインドを追いついて2-2のドローに持ち込んだ一戦を、バルディは「試合を支配していたのは日本だった」と評価する。非保持で示した世界最先端の守備と、物足りなさも感じていた保持の課題――オランダ戦を通して見えた森保ジャパンをフラットな目線で評価する。

「感情を解放した日本は、もはや欧州の強豪と変わらない」

――6月15日にダラスで行なわれたグループFの初戦、オランダ対日本は緊迫した展開の末2-2の引き分けでした。両チームとも互いをリスペクトした結果、本来からすれば慎重な振る舞いが基調になったこともあり、持てるポテンシャルを出し切った試合とは言えなかったように思います。ニュートラルな視点から見ると、特に前半は退屈だったかもしれません。レナートはこの試合から全体としてどんな印象を受けましたか?

 「私はまず、戦術的な視点を離れた考察から入りたいと思います。1人の西洋人から見て、この試合の日本はこれまで持たれてきたイメージ、つまりあまり感情を表に出さず、真面目に規範を守り、控え目に振る舞う――そうしたステレオタイプからかなり解放されているように見えました。試合前の国歌の時に監督が目に涙を溜めていたのに始まり、最後の10分間にベンチ全体が立ち上がって試合に参加していたこともそうです。オランダのベンチは全員座っていましたが、日本は皆がラインの前に出てあれこれ指示を出していた。久保がアイシングしている脚を引きずりながら鎌田に駆け寄ったのもそうです。自らの感情を解放して自然に振る舞うようになった、と言ってもいいかもしれません。それがピッチ上でもリードされた後の粘り強さ、ゴールへの執念、強い結束といった感情レベルの力に結実したのかもしれません。あくまで個人的な印象ですが、規範や規制に過度に縛られることなく、感情を抑制せずオープンにするようになったように見える。そうした側面はピッチ上の振る舞いやパフォーマンスにも自ずと反映されるものです」

――全員が普段からヨーロッパのクラブでプレーしていて、そういう環境に馴染んでいること、代表チームとしても多くの選手がW杯を経験済みだし、親善試合も含めてドイツ、スペイン、ブラジル、イングランドといった世界の強国に勝った経験を持っていることが大きいのかもしれませんね。10年前とは違ってW杯の大舞台が自分の日常とつながっているというか。

 「振る舞いだけを見れば、ヨーロッパの強豪チームだと言われてもあまり違和感は感じないように思いました。戦略的な観点から見ると、日本はこの試合をオランダよりもうまく準備していたと思いますし、何よりも試合そのものをオランダよりもはるかによく読み取り解釈して戦ったと思います。試合の局面を読み、相手の振る舞いを読み、忍耐を失うことなく試合の中に止まり続けた。先制された後ですら、大きなショックを受けているようには見えなかった。バランスと距離感を維持し、それまでと変わらず落ち着きを失うことなくプレーした。動揺や焦りといった感情的な揺れがプレーに表れることはありませんでした。すぐに同点に追いつくことができたのもそれゆえでしょう。

 ゲームプランとしては慎重さが勝っていたと私も思いますが、その結果としてオランダにはほとんど何も許さなかった。ボールと主導権を相手に譲って、コンパクトなミドルローブロックで受け止め、危険なスペースや時間はほとんど与えませんでした。大きなスペースでの攻防になったら、パワーやスピードといったフィジカル的な側面で不利になるとわかっていたので、まずはそれを避けたかったのだと思います。それでも避けようがないのはクロスやセットプレーがもたらす空中戦で、実際そこでは必然的な代償を払いましたが、トータルの収支がマイナスになることはなかった。オランダはボールと地域を支配しましたが、試合そのものを支配していたのは、ボールを持たない日本の方だったと思います」

ボールは持たれたが、試合は支配した――ローブロックでのオランダ封じ

――支配していたかどうかはわかりませんが、コントロールしていたとは言えると思います。

 「ボールを持たなくとも試合を支配することはできます。ハイプレスやハイブロックによってはもちろん、ローブロックからのプレッシングによってもね。確かに、高い位置からマンツーマンプレッシングを仕掛けたり、ゲーゲンプレッシングで襲いかかったりすることは、試合を支配したいという意思の表れです。しかし、我々の友人であるマイキ(林舞輝さん)が最近のインタビューで言っていたように、ローブロックからでもプレッシングを行うことはできるし、それも試合を支配しようとする1つの形だと思います。日本はそれを非常にうまく行う能力と特徴を備えていました。トランジションにおけるオランダの散漫さをもう少し積極的に突こうという意図があれば、もう少し多く危険な状況を作り出すことができたと思います。

 戦術的な観点に立てば、オランダはボール保持を通してこの試合を支配しようとしたけれど、それは成功しなかったと言えます。試合の大部分を通して、オランダのポゼッションは遅く、単調で、静的で、流動性にも意外性にも乏しかったからです。ポジショナルな配置に基づいていましたが、あまりにも静的でダイナミズムが欠けていた。4バックをほとんど固定して、ドゥムフリースにすら彼の最大の長所である縦の突進力を発揮する自由を与えなかったという選択は象徴的です。実際2点目のゴールは、ドゥムフリースがオーバーラップで中村を外に引っ張ったところから生まれています。つまり、オランダはこの試合の準備を誤り、解釈を誤った。とりわけ後半半ば、リードしてからの戦略とそれに伴う交代は明らかな悪手でした。一方の日本は、この試合をよく準備しそれをよく実行しましたが、ゲームプラン自体がやや慎重に過ぎたように思います。最後の20分に発揮したあの勇気が、最初の70分には欠けていた。日本のアタッカー陣のクオリティとスピードを持ってすれば、いずれにしてもオランダをより大きな困難に陥れることができたと思います」

――特に前半の日本の振る舞いには、攻撃を縦に加速することは控えて、試合のリズムを低く保ちたい、試合の中におこる不確定要素を減らしてコントロールしたいという意図が明らかに見えていたように思います。トランジションが連続するような展開にはしたくなかったのではないでしょうか。

 「広いピッチでの攻防を避けたい、オープンスペースでのデュエルを避けたいという狙いは明らかに持っていたと思います。オランダは前線に強くて速い選手を揃えており、インサイドハーフの2人(ラインダース、フラーフェンベルフ)も、ドゥムフリースも縦の推進力がある。彼らにスペースを与えないこと、試合のスペースそのものを圧縮することで、その強みを制限できたことは確かです。試合のリズムを落とす方向に相手を誘導したと言ってもいいでしょう。特に前半は、トランジションやポゼッションの局面でも、リズムを上げる機会があっても、リスクを冒してまでそうしようとはしませんでした。少し何かを試みていたのは、中村だけでした。

 試合そのものは、リズムという観点からも、決定機という観点から見ても、前半はかなり退屈でした。日本は受動的に振る舞いながら、忍耐力、レジリエンス、状況を読みコントロールする能力を発揮し、スピードとパワー、そしてとりわけ1対1突破において高いクオリティを持つオランダに、それを発揮する機会を与えませんでした。非保持時の基本配置は非常にコンパクトな[5-4-1]で、前田をオランダの左SBファン・デ・フェンに対して前に出すことで、第1列から縦に展開するパスコースに常に制限をかけることができていました。オランダは、4バックとデ・ヨンクが構成するビルドアップユニットがかなり平坦に並び、動きも少なかったことで、縦にボールを運ぶのに不可欠な段差を作ることができておらず、それが日本の守備を簡単にしていました。

 日本の基本システムは[3-4-2-1]ですが、両サイドに逆足のウイングバックを置くという選択は、現代サッカーのトレンドを反映するものです。私たちは何年か前に書籍シリーズ『モダンサッカーの教科書』の中で、SBに逆足のプレーヤーを置く可能性、大外から1列中に入ってビルドアップに加わり、持ち上がりや斜めのパスによってピッチを割る能力の重要性について話しましたよね。堂安と中村は、ともにSBではなくウイングが本職だという点で、このポジションの非常にモダンな解釈の実例だと言うことができる。堂安は攻撃では中村ほど活躍できませんでしたが、守備の局面ではチームがバランスを保つ上で貴重な貢献を果たしていました」

――ガクポにほとんど仕事をさせませんでしたよね。開始間もなくマレンがシュートを打った場面で縦パスを許したくらいでしょうか。

 「日本は5+4、時には5+5の2ラインを常にコンパクトに保っており、サイドでも、ハーフスペースへのMFの侵入に対しても、常にダブルチームで対応する体制を保っていました。ガクポがボールを持った時にも必ず堂安と久保が2人で対応していた。序盤は最終ラインの押し上げも効いており、オランダを押し返すこともできていましたが、徐々にローブロックでスペースを閉じて、オランダのポゼッションを無効化することに専念するようになっていった。日本は全員が非常に勤勉にタスクをこなし、ボールにプレッシャーをかけつつ、オフ・ザ・ボールでの侵入に対しても常に的確に対応して吸収していました。オランダがクオリティを発揮できなかったのは、彼らの攻撃が単調かつ静的に過ぎたというだけでなく、日本が常にコンパクトにスペースを閉じていたことも大きな理由だったと思います」

ゾーン内マンマークと鈴木彩艶。日本守備を支えた2つの要因

――オランダが前半もう少しやれたとしたら、どの部分でしたか。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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