4-2に表れるケイン・ゼロトップ戦術の裏と表。クロアチアに恐怖を植えつけたイングランドの“らしさ”とは?
【特集】北中米W杯深掘り分析スペシャルレビュー#2
4年に1度のW杯は、後世に語り継がれる名勝負の宝庫だ。しかし高度化した現代サッカーの裏側には、徹底した分析と綿密なシミュレーションに基づく極限の戦術的駆け引きが存在する。footballista編集部が選んだ識者たちが、注目国同士による「本気の闘い」を深掘りレビュー。あの90分で何が起きていたのか。勝敗を分けた戦術の妙に迫る。
第2回では、お馴染みのらいかーると氏がイングランド対クロアチアを分析。2-2で折り返して4-2という計6発の乱打戦に表れたケイン・ゼロトップ戦術の裏と表、そしてクロアチアに恐怖を植えつけたイングランドの”らしさ”を読み解く。
出場国が48、組分けが12に増えたグループステージでも、初戦には似つかわしくない対戦カードがいくつか生まれている。3位でも成績上位8チームが決勝トーナメントに進出できるという、北中米W杯のレギュレーションを鑑みると、当事者たちが絶対に負けられない戦いとするかどうかは議論の分かれるところだろう。
今日のお題は、そんな注目国対決の1つであるイングランド対クロアチアだ。両チームともに決勝トーナメントに駒を進めることは確実視されていると勝手に思っている。特にプレミアリーグの隆盛を考えれば、イングランドはそろそろ結果でも内容でも、世界をギャフンと言わせたいのではないだろうか。
トッティを彷彿とさせるケインのゼロトップ
序盤に自己紹介を成功させたのは、[3-4-2-1]のクロアチアだった。イングランドを相手にハイプレッシングを実行。形としてはCFペタール・ムサをトップ下、2シャドーのマルティン・バトゥリナとペタール・スチッチを2トップにするという、Jリーグでもよく見られる前線の逆三角形化となった。なお、日本代表もよくCF上田綺世に相手のセントラルハーフを背中で消させ、シャドーたちが相手の2CBに外からプレッシングをかけることがあるので、スタンダードな形と言えるだろう。
イングランドの配置が[4-1-2-3]だったこともあって、両CBとアンカーのエリオット・アンダーソンの立ち位置と噛み合うことになったクロアチア。GKジョーダン・ピックフォードにまでプレッシングをかけるその振る舞いをみていると、相手にボールを保持させることが得策とは考えていなかったのだろう。今大会はおとなしめなチームが多い中で、序盤から動きを見せる。
時間の経過とともに、クロアチアはミドルプレッシングに移行し、[5-2-3]で構えるようになる。ハイプレッシングへの移行では、右セントラルハーフのルカ・モドリッチをトップ下化するオプションも持っているようだった。ビルドアップ隊がおしなべて捕まっている状態のイングランドは、両インサイドハーフのジュード・ベリンガムとデクラン・ライス、そしてCFハリー・ケインの下りる動きもビルドアップの出口としながら、徐々に敵陣に入っていった。
アンダーソンの無理矢理な縦パスから発生したボールの奪い合いの末に、コーナーキックを得たイングランドは、その流れでPKを獲得。1本目を失敗したケインが蹴り直しで汚名返上して、開始12分で試合が動いた。助走に緩急をつけてGKを先に動かす蹴り方と、そのまま勢いをつけて蹴っ飛ばす蹴り方でも駆け引きができる二刀流のケイン。みんな、両方ができるように練習しよう。
気がつけば純粋なCFではなく、セントラルハーフのような仕事をトッテナムとバイエルンでこなしてきたケイン。イングランド代表でも同じようなタスクを担っている9番に驚かされたのは、CBの間まで下りた場面。マンチェスター・シティでもベルナルド・シルバがその位置でプレーすることがあるように、時間とスペースを得られるエリアで誰がプレーするかが大事な時代になってきている。
そんなケインのプレーは、ボール保持の安定につながることもあれば、両ウイングの裏抜けを促すようなロングボールも多かった。そのパスがことごとく成功すればなんてことはないのだけど、この試合ではクロアチアの守備網に引っかかってしまうことが多かった。問題はその後の流れにある。ケインは後方に下がっているので、クロアチアのCB陣がボールを回収した時に持ち場を離れているという状況だ。
つまり、クロアチアはボールを回復した時に、相手のプレッシングの枚数が足りない状態を利用してポゼッションを安定させやすい。この流れに拍車をかけたのは、スコアの状況だろう。イングランドにはベリンガム、ノニ・マドゥエケとアンソニー・ゴードンの両ウイングで相手の3バックにプレッシングをかける選択肢もあったのだろうけど、リードしながらその決断をするには1対1で必ず勝たなければいけないというリスクが頭をよぎる。
しかし、クロアチアの右ウイングバックにはヨシップ・スタニシッチがいた。ケインの不在でプレッシングに迷うゴードンと、スタニシッチにボールが渡れば飛んでくる左SBニコ・オライリー。バイエルンでも定位置をつかんでいるスタニシッチはそれを軽やかに剥がし、イングランドのボールの奪いどころを隠していった。
それでもハイプレッシングをやめないシーンもあったのだが、クロアチアには空中戦の的が2つあった。ムサと左ウイングバックのイバン・ペリシッチである。ともにイングランドの守備陣を相手にしても、空中戦で互角以上に渡り合っていた。GKドミニコ・リバコビッチがビルドアップを助けながら精度の高いロングボールを蹴る状況も相まって、イングランドはだんだんとプレッシングの開始ラインを自陣に下げるようになっていく。
余談だが、ケインのゼロトップはローマのフランチェスコ・トッティのゼロトップを思い起こさせるものであった。トッティがCFの位置から離れて自由に移動することで時間とスペースを手に入れ、他の前線の味方がランナーとして振る舞う設計は、懐かしさを感じさせる。ゴードンとマドゥエケを走らせてコーナーキックを奪うだけでもOKという攻撃は、今後の対戦相手にとっても厄介なものになるだろう。
列を下りるプレーには列を上げるプレーで対抗する
ボールを持てるようになったクロアチアは、イングランドのボール保持をいかに防ぐかに注力することで、より試合内容を自分たちの望むものにしようと企んでいた。
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。
