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【バルディ分析】なぜガンバ大阪は「整理されている」のか。再評価される[4-4-2]ゾーン

2026.05.08

レナート・バルディのJクラブ徹底解析#18
ガンバ大阪(後編)

『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブとイタリア代表のアナリスト兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はクラブ・イタリアのマッチアナリストを務める「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。

第17&18回は「典型的なJリーグのサッカーとは少し違う」とバルディが評したイェンス・ヴィッシング率いるガンバ大阪。後編では、[4-4-2]ゾーンによるプレッシングとライン間管理、整理された守備組織を読み解きながら、その一方で“混乱した状況”への脆さにも迫る。欧州で再評価が進む[4-4-2]ゾーン守備と、日本サッカーが抱える「カオス耐性」の問題。その両方が浮かび上がる分析となった(本文中の数字は4月28日の取材時点)。

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ゲーゲンプレスが外された瞬間、何が起きる?

――前編ではボール保持局面について見てきましたが、その中で、ビルドアップ時に2ボランチのどちらかがサイドに開いて、ボールサイドをオーバーロードするという話がありました。それに加えて左右のSBも積極的に攻め上がるとなると、後方でスペースを管理するのは2CBと残ったボランチの3人だけという状況も多いと思います。嫌な形でボールを失った場合、被カウンターのリスクがかなり大きくなりそうですが、そのあたりも含めてネガティブトランジションについて見ていきましょう。

 「ボールロスト時の原則は、ゲーゲンプレッシングによる即時奪回です。ただ、そのやり方にはまだ改善の余地が多分にあります。プレッシャーが十分に連動しておらず、相手にボールを持ち出す余地を残すことが多いからです。そのためカウンターを喫する場面も何度か見られました。相手を押し込んだ後は必然的に背後に大きなスペースが残るわけですが、そこを衝かれてしまう展開になると対応が難しくなる。

 即時奪回に成功した場合には、前線に人数をかけている上に個々のテクニックも高いので、ショートカウンターから危険な場面を作り出すことができます。ただ、いったんオープンスペースに持ち出されてしまうと、困難に陥りやすい。左右のSBは高い位置を取っていますし、最後尾で予防的カバーリングを行っている中谷と三浦も、特にスピードがあるわけではないので、背走を強いられると走り負ける可能性があります。ボランチも、安部は攻撃に絡んでいることが多く、後方でスペースを見ている美藤はそれほど走力があるわけではない。敵アタッカーのスピードやクオリティにもよりますが、オープンスペースで3対3、4対4の走り合いになるとややきつい印象があります」

――予防的カバーリングは?

 「攻め残った敵アタッカーはしっかりマークしています。三浦、中谷のCBペアは、そのあたりの意識が高い。問題はそこではなく、ボール周辺でのゲーゲンプレッシングです。そこで即時奪回も遅らせることもできずに持ち出されれば、いずれにしても背走を強いられるわけで、そうなるとスピードや走力の面で不利になるという話です。奪い切れなくとも前方へのパスコースを閉じて遅らせることができれば、段階的なリトリートが可能になりますが、そこで一気に持ち出されてしまう場面が何度かありました。そうなると後手後手に回って、ブロックを再構築する前に攻め切られてしまう。

 これは個人的な印象ですが、Jリーグでも以前と比べて、ポゼッションを確立するよりも縦に速く攻めようという意識が強くなっているように思います。昨シーズン見た町田や京都、今シーズン見た広島もそうです。そういうチームは、トランジションでも縦へ、スペースへと攻めてくるので、オープンスペースでそれを追いかけて40~50m背走せざるを得なくなります」

――かつて、グアルディオラがバイエルンで偽SBを「開発」したのは、ブンデスリーガのトランジションの速さに対応して中央のスペースをより厚くケアするためだった、というエピソードを思い出します。ポゼッション1回あたりの保持時間が短く、トランジションの回数が多い展開の試合が増えると、カウンター対策の重要性も増しますよね。

 「ガンバの場合は、攻撃時に強引な仕掛けを避け、ボールロストの頻度を減らすという原則があるように見えますし、カウンターを喫する回数が特に多いわけではありません。ただそうなった時に直面する困難が大きいことは確かです。しかしそこも、ゲーゲンプレッシングの質が上がってくればかなり改善されるはずです」

なぜ欧州は再び[4-4-2]ゾーンに向かうのか

――では純粋な守備の局面を見ていきましょう。相手のゴールキックに対してのプレッシングから。

 「基本の原則はハイプレスだと思います。ただ、マンツーマンでボールに直接プレッシャーをかけていくのではなく、[4-4-2]のミドルハイブロックによるゾーンのプレッシングです。前の2人が相手の第1列にプレッシャーをかけてビルドアップの方向を限定し、ボールを追い込んでいくところからスタートする。そのディテールは試合によって戦略的に変化します。例えば福岡戦では、GKにも強く出て行くアグレッシブなプレッシングでしたが、岡山戦ではもう少し待ちの姿勢が強かった。とはいえ常にブロックは高く保たれており、プレス開始点は相手のファーストサードに入っています。ただ、プレッシングの目的はボールを奪うことよりも、相手のビルドアップの狙いを妨げ、制約をかけることに軸足が置かれています」

――ここ1、2年、マンツーマンのアグレッシブなハイプレスが流行しましたが、今シーズン、特に後半になってからはまたゾーンのハイプレスに戻ってきている感じがありますよね。プレミアリーグのシティ対アーセナルでグアルディオラが見せた[4-2-4]のプレッシングもそうでしたが。

 「私も最近、チャンピオンズリーグやプレミアリーグの試合を見ながらそのことを考えていました。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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