なぜ水戸は鳥海芳樹を選んだのか――町田戦に見るストライカーの設計図
水戸ホーリーホック昇竜伝#7
J2の中でも少ないクラブ予算ながら一歩一歩積み上げてきた水戸ホーリーホックは、エンブレムにも刻まれている水戸藩の家紋「三つ葉葵」を囲む竜のようにJ1の舞台へ昇ろうと夢見ている。困難な挑戦に立ち向かうピッチ内外の舞台裏を、クラブを愛する番記者・佐藤拓也が描き出す。
第7回は、甲府から新加入した鳥海芳樹。限られた予算の中でJ1の舞台へとたどり着いた水戸の新たな挑戦を象徴する存在だ。第2節・町田戦で決めたJ1初ゴール。そこに宿っていたのは、単なる得点ではなく、「分析」「駆け引き」「役割理解」が結晶化したストライカーの嗅覚だった。なぜ水戸は鳥海を必要としたのか。そして、鳥海はJ1という未知の強度にどう適応しようとしているのか。
ゴールに凝縮された“設計された駆け引き”
明治安田J1百年構想リーグ第2節・FC町田ゼルビア戦。1-1で迎えた44分。最終ラインの板倉健太が対角線のフィードを左サイドに送る。正確に放たれたボールを大森渚生がキープし、サポートに来た渡邉新太に渡すと、ペナルティエリアに内に走り込んだ加藤千尋にパス。そして、ゴール前に折り返したボールを鳥海芳樹が合わせて、ゴールに流し込んだ。
長短のパスを織り交ぜながら、選手が流動的に動いて、町田の守備組織を翻弄。完全に町田の守備を崩して決めた見事なゴール。そして、特筆すべきは、ゴール前で町田の屈強なCB岡本大八のマークを外した鳥海の動きだ。
「相手のクロスの守備はあまりボールを見ないで、人をつかんでくるという分析がありました。そこは駆け引きで、僕は身長がないので、下のボールと駆け引きで勝負すると決めていました」
最初からボールを欲しいスペースに飛び込むのではなく、そのスペースを空けておきながら、ファーに流れるような動きを見せて、岡本をかく乱。そして、加藤が折り返しを入れるタイミングで一気にスピードを上げて、空けておいたスペースに飛び出して、岡本を振り切って、ワンタッチでゴールに流し込んでみせた。“ストライカー”の嗅覚が発揮されたゴールだった。
チームのために闘いながら9ゴールの価値
「今年はFWで出ているので、ゴールという結果は自分の中で数字にこだわっている」
そう語る鳥海は昨季まで5シーズンにわたり、甲府に在籍。主に[3-4-2-1]システムのシャドーの位置で起用されてきた。「自分の持ち味はドリブルだったり、ターンだったり、ゴールに直結するプレー」と語るように、高い攻撃能力を活かして起点となって攻撃を活性化する役割を担っていた。高い位置でボールを受けるだけでなく、チームとしてボールを前進させるのに苦しんでいる時はボランチの位置まで下りて組み立てに参加することも多く、その柔軟性も鳥海の魅力だと言える。
そして、昨季はそうした様々な役割を果たしながら、キャリアハイの9得点を記録。大きな進化を見せたアタッカーに水戸の強化部は目をつけ、J1昇格するチームの新たな攻撃の軸としようとオファーを出した。
特に評価したのは、チーム戦術に徹した中でゴールという結果を残した能力。
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Profile
佐藤 拓也
1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。
