REGULAR

アフリカ・ネーションズカップ決勝分析。セネガルとCAFを救ったマネの「自分たち」を超えた価値観

2026.01.21

新・戦術リストランテ VOL.101

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第101回は、アフリカ・ネーションズカップ決勝分析。W杯出場国であるセネガルとモロッコが激突した一戦は、後半アディショナルタイムに大きなドラマが待っていた。

「試合放棄」の危機を救ったマネの凄さ

 8分あったアディショナルタイムの6分を経過したところでモロッコにPKが与えられます。これを不服としたセネガルは監督の指示もあり選手たちが試合続行を拒否。ただ、マネはフィールドに残っていました。最終的にロッカールームに引き上げていた選手たちも呼び戻して約20分後にようやく再開。ブライム・ディアスのPKはGKメンディがストップ、延長に突入しています。そして延長前半、パプ・ゲイエのミドルが決まり、そのままセネガルが1-0で勝利しました。

 マネが救いましたね。決勝点もマネのボール奪取から生まれていますが、それよりも試合放棄を1人で覆したリーダーシップが圧巻でした。

 あの時点で、チームの総意はボイコットだった。それに1人だけ従わなかった。

 もし試合放棄していたら、CAF(アフリカサッカー連盟)から厳しい制裁が科されたはずです。パペ・ティアウ監督は資格停止になっていたかもしれませんし、W杯までの活動に制限がかかったかもしれません。次回のCAFでの試合にも影響があったでしょう。決勝戦での試合放棄はネーションズカップを傷つけ、CAFの運営能力にも大きな疑問符がつけられたでしょう。

 マネの冷静さでそれらの困難を回避できたわけですが、それを1人でやったというところが凄い。損得勘定より、自分の価値観に照らして「これは違うぞ」ということだったのではないかと思います。

 敗者への風当たりが異常に強く、サッカーがスポーツを超えたものとしての意味を持ち、他人をあまり信用しない。そういう環境では「負け」、特に不当と感じる負けは断じて受け入れない、抗議を貫くことこそがプライドとなりがちで、今回のようなトラブルが発生することがあります。様々なプレッシャーでタガが外れて感情が暴走するわけです。

 マネはそれに1人でNOを示し、最後は全員をフィールドに戻した。他の選手たちも戻ったということは、いったん同調圧力に流されていたということなのでしょう。

 これできる人って、そういないと思います。例えば日本人だと「チームの総意がそうなら仕方ない」になりがちではないでしょうか。欧州で異文化を経験し、さらにビッグスターとして大きな視野を獲得したマネの、自分や自分たちを超えた価値観、責任感。付和雷同せずに立ち止まれる感覚が、セネガル、大会、CAFの崩壊を止めた。決勝のハイライトだったと思います。

まるで異種格闘技戦。アフリカの対照性

 セネガルvsモロッコは、さながら異種格闘技戦のようでした。

……

残り:1,518文字/全文:2,760文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

RANKING