ローマは決定的、フィレンツェは微妙、ナポリとジェノバは時間切れ。EURO2032共催国イタリアのスタジアム開発事情
CALCIOおもてうら#60
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、EURO2032共催国であるイタリアのスタジアム開発事情。トリノとミラノは決定的で、首都ローマも1枠は確実。しかし、フィレンツェ、ナポリ、ジェノバ、ボローニャの計画は様々な理由で難航している。新スタジアムを建てたいクラブ側と現スタジアムの改修で乗り切りたい自治体のドロ沼の攻防をレポートする。
昨年11月、サンシーロ(スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ)の保有権がミラノ市からミランとインテルに譲渡され、2030年までに隣接地への新スタジアム建設が決まったことは、当連載コラム『新サンシーロ計画がついに決着!?ミラン&インテル共同保有で2030年から稼働予定』でお伝えした通り。
これは、両クラブにヨーロッパのトップクラブとして生き残っていく上で不可欠な収益源をもたらすのに加えて、イタリアサッカー界全体が長年抱えてきたスタジアム老朽化問題を解決するための先行事例になり得る点、そして何より6年後に予定されているEURO2032開催に不可欠な5つのスタジアムのうち1枠が確実に埋まったという点においても、非常に意味のある大きな一歩だった。
そもそも、EURO2032がトルコとの共催になったのは、イタリア単独では開催に必要なスタジアムを10会場用意することが不可能だという事情があったからだった。なにしろ、現時点でUEFAの最新基準を全面的にクリアしているスタジアムは、トリノのユベントス・スタジアムただ1つ。ローマのスタディオ・オリンピコは、すでに計画が進んでいる内部改修工事でクリアできる見通しだが、現サンシーロは、大規模改修してもなお基準がクリアできないため、開催地候補から外されるほど老朽化が進んでいるのが現状だ。それを考えれば、トリノ、ローマに続いてミラノが開催都市となるメドが立ったのは、大変めでたいことだと言わなければならない。
問題は、イタリアに割り当てられた5枠のうち、残る2会場については今なおメドが立っていないこと。UEFAは、今年10月までに全5会場を確定させることを求めているのだが、そのためには遅くとも7月までに、国や自治体の承認、資金調達、着工準備が完了していなければならず、さらに2027年5月までに工事が開始することが必須条件とされている。これらの条件がクリアできない場合には、開催返上という最悪の事態に発展する可能性もある。
とはいえ、現時点でもすでにローマ、フィレンツェ、カリアリなどで新スタジアムのプロジェクトが進んでおり、最終的にはどうにかして5会場を確定できそうな雲行きではある。以下、それぞれの候補地におけるプロジェクトの進捗状況を見ていくことにしよう。
オリンピコ改修は問題なし、ASローマの新スタジアムで「2枠」もある?
ローマのスタディオ・オリンピコ(6万7500人)は、陸上トラックつきの汎用型スタジアムだが、オーナーのイタリアオリンピック連盟(CONI)が10年に一度くらいのペースで改修工事を行って、UEFAカテゴリー4(最高ランク)を維持している。EURO2032の開催基準に適合するためには、VIP&ホスピタリティエリアの充実、観客席の快適性向上、メディア施設の拡大と設備のフルデジタル化といった内部改修が必要だが、その実施にハードルはないため、ほぼ確定と見なすことが可能だ。
ローマで注目されるのはむしろ、ASローマの新スタジアム計画が、具体化に向けて着実に進んでいること。これは、市北東部ピエトララータ地区(地下鉄B線クインティリアーニ駅周辺)に広がる約18ヘクタールの市有地に、6万2000人収容の新スタジアムを建設し、周辺をスポーツ公園として整備するというもの。土地はローマが99年の地上権を設定して市から借地、スタジアム建設および公園、インフラ整備費(総額およそ1億1000万ユーロ)はすべてローマのオーナーであるフリードキン家が負担する。この12月にはローマが市に基本計画書を提出済みで、向こう1~2カ月中に市議会の承認を得られれば、EUROのタイムリミットである7月までに最終的な建設許可が下りる可能性がある。
もし目論見通りにことが進めば、ローマはEURO2032において、オリンピコとこの新スタジアムという2つの会場を持つことが可能になる。いずれも6万人規模と開幕戦や決勝の開催要件をクリアしており、経済効果やブランド価値など都市に絶大なメリットをもたらし得る。ローマ市にとってはこれが最良のシナリオだろう。
……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
