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新サンシーロ計画がついに決着!?ミラン&インテル共同保有で2030年から稼働予定

2025.10.03

CALCIOおもてうら#53

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、自治体との交渉で紆余曲折あったものの、ようやく出口が見えてきたミラン&インテルの新スタジアム構想。「サッカーのスカラ座」と呼ばれた旧サンシーロを解体し、隣接地に7万1500人を収容する最新鋭のスタジアム=新サンシーロを建設する――という計画が実現へ向けてついに動き出した。

 9月30日早朝3時、ミラノ市西部のサンシーロ地区に位置する市営スタジアム「スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ」とその周辺地域約14ヘクタールを、ミランとインテルが出資する合弁会社M-Iスタディオに1億9700万ユーロで譲渡する議案がミラノ市議会で採決され、賛成多数で承認された。

 これによって、2019年に持ち上がって以来、様々な紆余曲折を経ながらまる6年間を無駄に費やしてきたミラノの新スタジアム構想が、ようやく実現へと向かうことになった。現サンシーロをそのごく一部を除いて取り壊し、隣接地に7万1500人を収容する最新鋭のスタジアムを新たに建設するというのがその概要。つまるところ、2019年の当初計画と基本的に同じ内容である。それを決めるために6年もかかったこと自体信じがたいことだが、これまでイタリア各地で持ち上がっては消えてきた新スタジアム構想の数々を思えば、決まったというだけでも大きな一歩だと言うしかない。

「サンシーロ解体阻止」を巡る6年もの攻防

 現在にいたる経緯は、これまでにも何度かお伝えしてきた。つい1年半前、2024年2月の時点では、2019年の当初案(現サンシーロ解体と隣接地への新スタジアム建設)が2023年に一度放棄され、ミラン、インテルはそれぞれ近隣の自治体に自前の新スタジアムを建設する方向に転換、焦ったミラノ市がそれに対して、現サンシーロの大規模改修計画を新たに打ち出し、両クラブに参加を打診するという、混迷した状況だった。

 2023年に当初計画が頓挫したのは、イタリアには築70年を経て歴史的、文化的な価値があると認められた建造物は取り壊さずに保存しなければならないという文化財保護法があることが理由だった。サンシーロも1955年に増築された2階席部分(スタジアム外壁を取り巻く形で斜めスロープの通路が重なる美しい構造)が2025年に築70年を迎えるため、その時点からこの法律の対象となって取り壊しが不可能になることがほぼ確実と見られていた。サンシーロは2026年2月のミラノ・コルティナ冬季五輪の開会式会場となっているので、2025年より前に解体に着手するという逃げ道も使えなかった。

 ミラノ市が打ち出した大規模改修計画は、サンシーロで試合を開催しながら、スタンドを部分的に閉鎖し、3年がかりで段階的に改修を進めていくという、マドリードのサンティアゴ・ベルナベウやバルセロナの新カンプ・ノウで用いられた方式だった。しかしミランとインテルは、改修後もクラブが新スタジアムに求める様々な要件は十分に満たされないという理由で、この計画への参加を拒否する。2024年半ばのこの時点では、両クラブはそれぞれ自前のスタジアムを市外に建設し、サンシーロは放棄されて朽ち果てて行く(あるいはコンサート会場などに転用される、いずれにしても市にとっては不採算)という未来が最も実現性が高いように見えた。

 しかし昨年秋になって、水面下でのネゴシエーションの結果なのかどうなのか、築70年で自動的に保存が義務づけられ取り壊しが不可能になるのは公有地に立つ公共建築物だけであり、私有地に立つ私有建築物には必ずしも適用されない、という抜け道的な法解釈が突然取り沙汰され始める。これを受ける形で、ミランとインテルがミラノ市からサンシーロとその周辺地区を買い取り、スタジアムを私有化することで法律の適用を回避する、という案が急速に浮上してきた。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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