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水戸の“新エース” 齋藤俊輔、覚醒の舞台裏。大崎航詩の叱咤と渡邉新太から指摘された“ある課題”

2025.12.16

水戸ホーリーホック昇竜伝#5

J2の中でも少ないクラブ予算ながら一歩一歩積み上げてきた水戸ホーリーホックは、エンブレムにも刻まれている水戸藩の家紋「三つ葉葵」を囲む竜のようにJ1の舞台へ昇ろうと夢見ている。困難な挑戦に立ち向かうピッチ内外の舞台裏を、クラブを愛する番記者・佐藤拓也が描き出す。

第5回は、優勝記念の今月2本目、今季大ブレイクした弱冠20歳・齋藤俊輔の覚醒の舞台裏を伝えたい。第20節今治戦での大崎航詩の叱咤、10歳年上の“親友”渡邉新太から指摘されてきた“ある課題”とは何なのか?

 高卒2年目で弱冠20歳ながらも、J1昇格とJ2優勝を果たしたチームの主力としてプレー。8得点を挙げる活躍で、リーグ参入26年目のチームが成し遂げた“偉業”に大きく貢献した齋藤俊輔。今季、水戸ホーリーホックだけでなく、J2リーグ全体で最も脚光を浴びた若手選手の1人と言えるだろう。

 J2月間ベストゴールを3回獲得したように、スーパーゴールを連発。シーズン終盤、チーム得点王の渡邉新太が負傷離脱した中、チームに勢いをもたらし、勝負所で得点を重ねて、“エース”として攻撃を牽引してみせた。

 「自分でも予想できない1年間でした。代表に行ったり、クラブで結果を残したり、そして優勝もして。自分の中でも全く想像していなかったです。まさか本当に水戸が優勝するなんて、誰も思ってないわけで。それが起きたシーズンに、自分がいたことは嬉しいです」

 飛躍のシーズンをそう振り返った。

横浜FC戦の衝撃初ゴール、しかし…

 ただ、シーズン序盤から活躍を見せていたわけではない。むしろ、序盤は思い通りのプレーができず、苦しむ時期が続いていた。

 ルーキーイヤーとなった昨季、5月から指揮を執った森直樹監督から高く評価された齋藤は16試合に途中出場し、第24節横浜FC戦ではJ1昇格を果たしたチームの3人を振り切ってシュートを叩き込む鮮烈なJ初ゴールを決めて注目を集め、11月にU-19日本代表に初招集されることとなった。

 大きな自信をつかんで迎えた今季、開幕前にはU-20日本代表に選出されて、中国で開催されたAFC U-20アジアカップに出場。しかし、現地でコンディションを崩してしまったこともあり、プレーの精彩を欠いた。U-20W杯出場権獲得というタスクを達成したチームの中、齋藤にとって不完全燃焼の大会となってしまった。

 水戸に戻ってきてからも、調子がなかなか戻らなかった。同ポジションの津久井匠海(現大宮)が攻撃の核となり、チームにとって不可欠な存在になっていたこともあり、先発出場の座を勝ち取ることができず、途中出場で起用されても爪痕を残せない試合が続いた。第12節まで6試合の出場に留まり、ゴールを挙げることはできなかった。

「お前は前に行け!」才能を信じる大崎航詩からの怒号

 その齋藤に転機が訪れた。第17節を最後に、津久井が大宮に移籍。その後、サイドMFとして先発で起用される試合が続いた中、「自信を取り戻すきっかけとなった」と自ら振り返ったのが、アウェイで行われた第20節今治戦だった。

 右MFとして先発出場した齋藤だったが、なかなか攻撃面で力を発揮しきれず、消極的なプレーが続いていた。ボールを受けて、マーカーと対峙した際、後ろを向いてプレーしようとしたところ、ピッチ内から怒号が飛んだ。その声の主はボランチでプレーする大崎航詩だった。

……

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Profile

佐藤 拓也

1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。

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