下位予想を覆す快進撃を支えた明確なアイデンティティー。柏レイソルに根付く「お互いを尊重し合える集団」という文化
太陽黄焔章 第31回
ここまでの快進撃を、いったいどれほどの人が予想しただろうか。最終節までJ1の優勝争いを演じ、最後は鹿島アントラーズに一歩及ばなかったものの、魅力的なスタイルを貫いてリーグ2位と躍進を遂げた柏レイソル。もちろん今季から就任したリカルド・ロドリゲス監督の確かな手腕は言うまでもないが、その陰にはチームが短くない時間をかけて積み上げてきたアイデンティティーと文化があった。
最後に残された“追試”。優勝を懸けたラストゲーム
第37節終了時点で2位の柏レイソルには、自力優勝の可能性はなかった。だからこそ、自分たちがやるべきことはただ一つ。他会場の鹿島アントラーズの結果を気にするのではなく、最終節のFC町田ゼルビア戦に全神経を注ぎ、勝利を掴み取ることだった。
だが町田は、一筋縄では絶対にいかない相手だった。天皇杯決勝を含む公式戦4連勝中。そして何よりも、今季の柏が苦手としてきた強度の高いマンツーマンディフェンスと、フィジカルバトルに長けたチームだ。第17節の対戦では、大雨の影響でピッチの至る所に水溜まりができ、柏のストロングポイントが封じられた中、町田の得意な土俵で戦ったということがあったにせよ、0−3の完敗を喫していた。
さらに鹿島には2敗、ヴィッセル神戸には1敗1分、YBCルヴァンカップ決勝ではサンフレッチェ広島のマンツーマンディフェンスとロングスローを含めたセットプレー三発に泣き、1−3で敗れてタイトルを逃した。
その痛みを知るからこそ、リカルド・ロドリゲス監督は町田戦の持つ意味を“追試”という独特な表現に込めた。
「取り残した単位、これを取らなければ卒業できない。まさしく我々にとってはシーズン最後に残された追試、これに合格点を取ることによって将来に向かって踏み出せる、そういう状況だと思います」

勝利は掴み取った。しかし、朗報は届かなかった
柏はその言葉どおり、最終節でも一切ブレることなく自分たちが今季積み上げてきたスタイルを貫いた。強度の高い町田の守備にも屈することなく、巧みな連携とパスワークでいなし、守備の局面においてはロングボールを放り込まれようとも、古賀太陽、杉岡大暉が果敢にエアバトルに挑み、小西雄大と中川敦瑛のセカンドボール回収も早い。
1トップを務めた細谷真大は、岡村大八、望月ヘンリー海輝、昌子源、試合の途中からはドレシェヴィッチという、Jリーグを代表する屈強なディフェンスたちとのフィジカルバトルを繰り返し、最前線で堂々と渡り合う。しかも細谷はただボールを収めるだけではなく、彼の意識は必ずゴールへと向くため、前を向いてゴールへ向かうその推進力が町田守備陣に脅威を与え続けた。
63分、中川のターンとドリブルで町田のダブルボランチを引き剥がし、最後は瀬川祐輔のクロスから相手のオウンゴールを誘発した。
試合終盤は町田のセットプレーとクロスに押し込まれる苦しい時間帯を強いられたが、全選手が集中力高く守り抜き、1−0で勝ち切った。
逆転優勝のために自分たちに求められていた“勝利”は掴み取った。しかし、朗報は届かなかった。メルカリスタジアムでは鹿島が横浜F・マリノスを2−1で下したため、柏は勝点1の差で優勝を逃した。
それでも記者会見では、指揮官は胸を張った。
「私は今シーズン、このチームと戦ってなおさらこのスタイルこそが、タイトルを獲ることにつながる近道であると、そして多くの方々を幸せにしながらタイトルを獲る方法だと確信を持った。来シーズンに向けてさらにチームを補強し、そしてより良いチーム編成をしてタイトルを獲れるチームを作り上げていきたい」
2位に終わった悔しさを滲ませながらも、現チームの強さを確信したリカルド監督は、来季以降のタイトル獲得を強く誓った。
予想を覆す魅力的なサッカーでの快進撃
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Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。
