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ヘンダーソンの後継者不在に苦しむアヤックス。CL最下位脱出のヒントは板倉滉にあり?

2025.11.29

VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#22

エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。

第22回で取り上げるのはCLで最下位、エールディビジで6位と苦しい2025シーズン序盤戦を過ごしてきたアヤックス。その原因であるジョーダン・ヘンダーソンの後継者不在問題と、解決策となる板倉滉の起用法とは?

まるで11年前?パイション対策で浮かび上がる「自殺行為」

 アヤックスのDF板倉滉は現地時間11月25日のベンフィカ戦でアンカーとして先発し、後半は3CBの右を務めた。チーム、そして板倉自身のパフォーマンスは決して満足ゆくものではなく、0-2のスコアで完敗したオランダの名門はCLリーグフェーズ開幕5連敗となり、出場36チーム中最下位に沈んでいる。それでも、混迷を極める今季のアヤックスにおいて、板倉の“6番”起用、後半の3CBシステム採用は何か土台を作るヒントを与えたのではないだろうか?

 昨季と今季のアヤックスを比較してから、ベンフィカ戦の板倉のプレーを振り返りつつ、アヤックスの現状を語ることにしよう。

 昨季はフェイエノールト、今季はマルセイユのFWイゴール・パイションに対して、アヤックスは両極端な結果を残した。

 まずは1年前、2024年10月30日に行われたフェイエノールト対アヤックス。当時のフェイエノールトはCLでは敵地でベンフィカを1-3で下し、エールディビジでも4勝2分と好調だった。その鍵となったのがポゼッション時にパイションが中盤に加わったこと。直感型のドリブラーである彼が1列下がって中盤に厚みを作ってビルドアップに絡んだ上、攻撃に創造性を加えたことは、相手にとってかなり厄介だった。

 そこでアヤックスのフランチェスコ・ファリオーリ監督(現ポルト監督)は、MFジョーダン・ヘンダーソンを中盤右ハーフスペースのレーンにあらかじめ置くことで、パイションを待ち伏せする形を作った。こうしてフェイエノールトはビルドアップのキーマンが消されてしまい、0-2でアヤックスが完勝した。

 翻って今季、2025年9月30日のマルセイユ戦。ジョン・ハイティンハ新監督はアヤックスを攻撃的サッカーに作り変え、この試合も立ち上がりから果敢に攻め込もうとしたが、それはパイションにとって好都合。アヤックスのDFラインの背後に生まれた広大なスペースを、思うがままに享受したパイションは6分、12分に電光石火のゴールを叩き込み、0-4の快勝に貢献した。

 アヤックスが前半を3-0の劣勢で終えると、テレビ解説を務めたクラブOBのマルコ・ファン・バステンは苦虫を噛み締めたような表情で厳しく指摘した。

 「攻撃的に戦うのはいい。だけど、試合の入りはもっと慎重でないと。立ち上がりからハイプレッシングを仕掛け、ピッチ全体を1対1で戦い、開始1分で自陣ゴール前がオープンだった。自殺行為の戦術だ。確かに勇敢かもしれない。だけど、サッカーのことをわかってない」(マルセイユ対アヤックス、ハーフタイムのファン・バステン)

 2014年のオランダ代表と2025年のアヤックスは似ている。「このままでは強豪国と伍して戦うことができない」と踏んだ、当時のルイ・ファン・ハール監督は[4-3-3]の国であるオランダを5バックシステムに突貫工事で作り変え、ブラジルW杯で3位という好結果を残した。しかし後任のフース・ヒディンクはオランダらしい攻撃サッカーを再構築しようとしたが、初陣のイタリアとの親善試合を2-0で完敗したことで迷走が始まり、オランイェはEURO2016本大会出場を逃した。

 そして今季のアヤックスも、ファリオーリの守備的サッカーから攻撃的サッカーへの回帰を目指したが、芳しくない結果が続いている。その始まりはもしかしたら夏のプレシーズンマッチでコモに3-0で完敗した試合だったのかもしれない。それはまるで、11年前のイタリア対オランダのようだった。

「土台がなかった」ハイティンハ前体制。なぜ“6番”が不在なのか?

 スベン・ミスリンタートが遺した負の遺産と、ヘンダーソンの後継者不在は、現在のアヤックスにとって消えない傷となっている。

……

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Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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