ジェレミー・ドクの進化。「外」に張る純正ウインガーから「中⇔外」の万能アタッカーへ
TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#22
『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。
第22回は、プレミアリーグ屈指の突破力を持つマンチェスター・シティのジェレミー・ドクの進化について。特出した個の力を持ちながら判断力や決定力が課題とされてきたが、今季のペップ・シティのプレースタイルの変化に適応して興味深い化学反応が起こっている。
ピッチ上の指揮官であり、ヨーロッパ最高の選手となったロドリを失った24-25シーズン、マンチェスター・シティはプレミアリーグの主役ではなかった。
ペップ・グアルディオラはチーム構築に苦しみ、チームに変化を加える新たなカードを追い求めた。シーズンオフに注目されたのはコーチングスタッフの一新であり、リバプールでユルゲン・クロップを支えた副官ペップ・ラインダースやブレンダン・ロジャースのアシスタントコーチとして指導経験を積んだコロ・トゥーレを招聘。チームの意識改革に成功したシティは、少しずつゲームの主導権を奪えるチームに戻りつつある。
走行距離やボールを奪うネガティブトランジションでのインテンシティは世代交代を進める現在のチームの武器となっているが、攻撃面では欧州トップクラスに成長したドリブラーの活躍が大きい。アーリング・ホーランドという絶対的なエースに劣ることなく、チームの攻撃を牽引する切り込み隊長こそ、ジェレミー・ドクだ。もともと23歳のドリブラーはプレミアリーグでも屈指の突破力を誇る個として知られていたが、注目すべきはそのプレーにおける幅の変化だ。今回はグアルディオラを救う懐刀になりつつあるスピードスターについて、分析していこう。
シティに加わった即興的な「リレーショナルプレー」
欧州フットボールにおいて「ポジショナルプレーの隆盛」を象徴したのはグアルディオラであり、彼が指揮してきたチームだった。バルセロナやバイエルン、そしてシティは位置的優位を確保することが可能なポジションに選手を配置しながら、相手の組織を攻略してきた。一方で、南米を中心にリレーショナルプレーと呼ばれるスタイルが少しずつ欧州のフットボールでも参考にされるようになり、自由自在なポジショニングと即興的なコンビネーションで守備組織を苦しめるチームも評価されつつある。
このポジショナルプレーとリレーショナルプレーは決して分断されて語られるべきものではなく、リオネル・メッシはバルセロナとアルゼンチン代表の双方で中核として活躍した。グアルディオラのチームではドリブルで相手の組織を破壊し、ゼロトップのポジションから自由自在なポジショニングで動き回った。一方、カタールW杯のアルゼンチン代表では「メッシのために戦う」仲間に支えられ、天才の予測不可能な創造性を存分に発揮してチームを世界の頂点に導いた。アルゼンチン出身ではあるが、バルセロナの下部組織でフットボールを学んだメッシこそ、その両方に適合する選手だったのだ。
グアルディオラは、少しずつチームに創造性というスパイスを加えようとしている。
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。
