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「あの日があったから今日があるんだって言えるように」無冠決定の長谷部フロンターレが未来に生かすべき、ルヴァン杯準決勝の悪夢を振り返る

2025.10.30

フロンターレ最前線#21

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第21回では無冠が決定した今、未来に生かすべきルヴァンカップ準決勝の2試合を振り返る。

「少しやりすぎてしまう」長谷部監督が指示に秘めた葛藤

 期待が高まっていただけに、失望も大きい。川崎フロンターレにとっては、そんな10月となった。言うまでもなく、YBCルヴァンカップ敗退である。

 今月、クラブは準決勝の2試合を控えていた。リーグタイトルはすでにかなり厳しい状況だったため、明確には口に出さずとも、このカップタイトルを現実的な目標に入れつつあることは見て取れた。

 相手は柏レイソル。奇しくも、10日前にJ1第32節で対戦したばかりで、4-4という壮絶な撃ち合いを演じている。ただ流石に4失点は、看過できないレベルを超えていたのだろう。翌週に公開された戦術的修正を兼ねたトレーニングでは、長谷部茂利監督がいつになくゲームを止めながら、攻守で細かく指示を出す姿があった。熱のこもったコーチングは迫力があり、ボールに対する距離感やスライドのタイミングなど、チームの課題を克服したい思いが伝わる光景だった。

 練習後、「指示がわかりやすかった」と小林悠は証言する。

 「今日の練習でも、その守備の細かいところでシゲさん(長谷部監督)がその場、その場で止めながらやってくれました。わかりやすかったし、みんながどう守るのかとか、そういうところがすごく明確になってる。みんなが(失点を)減らそうとしてますし、シゲさんもそういうふうにアプローチしてくれてるんで、いい練習ができたかなと思います」

小林悠

 言葉なのか、映像なのか、体で覚えさせるのか。その時機や強弱のグラデーションも含めて手段は多数あり、そのアプローチに指揮官の手腕が表れるものだ。同時に練習後の長谷部監督は「少しやりすぎてしまう」と反省も語っている。ここの塩梅はやはり難しいのだろう。

 「選手が受け入れられるように言葉を選びながら、タイミングもそうですし、言い過ぎても、ミーティングも映像を見せすぎても、いい方向に行かない場合もあります。私は少しやりすぎてしまう傾向があるので、そうならないようにしながら考えていることを伝えてわかってもらう。いずれにせよ、チームをよくしていきたい思いはお互いに伝わっています。決して大体でいいとは思ってないですし、そのあたりのすり合わせができれば早くいい状態に戻れるのかなと思いますし、少しずつ戻っていると思います」

 瞬時に完治できるほどサッカーチームの治療は単純ではない。特効薬はない中で処方箋を施しながら、漢方薬のようにじわりじわりと治していくために最適なタイミングとバランスを探っていく。そこが主治医たる監督の腕の見せどころだとも言える。

 続く第33節の京都サンガF.C.戦は1-1のドローだった。クリーンシートこそならなかったが、川崎Fに次いでリーグ2位の得点力を誇る相手を1失点にとどめている。チームの守備組織にも改善の跡が見られた試合で、特に試合開始から30分まで京都にシュートを打たせないなど、決定機自体を作らせていなかった。しかし、前半に唯一打たれた1本で失点。サイドに揺さぶられた後に、中盤から背後に出たパスに後手を踏み、その折り返しでゴールネットを揺らされた。試合後の長谷部監督はアラートが足りなかったことを嘆いている。

 「少し揺さぶられたあとにパス1本でああいうふうに背後を取られているようでは、やはりまだまだ足りない。(京都は)それ以外でも何回もボールを背後に入れてくるチームですね。それは素晴らしいプレーだと思いますが、それを一度も成立させないようにしなくてはならない。成立されるとああいうふうに(失点シーンのように)なってしまう」

 ただ同時に「今日のところは及第点だと思います」と一定の評価を与えてもいた。

「修正点が多かった」分の上積みで先勝も万全ではなかった理由

 そして守備を立て直しながら迎えた、ホームでのルヴァンカップ準決勝第1戦。山本悠樹とファンウェルメスケルケン際のミドルシュートが決まり、前半に2点を先行した攻撃以上に、守備の手応えも感じられる45分間を過ごせたことが収穫だった。

 そこには前回対戦時からの修正力の差があったと試合後の脇坂泰斗が明かす。

……

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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