似た者同士のクラシコ。マドリーがバルセロナに示したマンマークプレスを打破する「第四の方法」
新・戦術リストランテ VOL.90
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第90回は、リーガ第10節レアル・マドリー対バルセロナのクラシコ分析。似た者同士の対決となった一戦で勝負を分けた要素であるDFライン「裏」の攻略について考察してみたい。
似た者同士の違いは「裏」
レアル・マドリーvsバルセロナのエル・クラシコは2-1でホームのレアル・マドリーが勝利しました。
どちらも前線からマンマークのプレッシングを仕掛け、互いにそれを外し切れず、従ってどちらも主導権を握れない試合展開でした。このカードにしては比較的珍しいのではないかと思います。
どちらかが保持すると、もう一方は引く。そういう感じが定番でした。必ずそうなるとも限らないのですけど、どちらも保持力が強いのでプレスしてもなかなか奪えず引くわけです。どちらかと言えばバルセロナが保持する試合が多かった。
ところが、今回はどちらも保持できない。何回かはプレスを外して押し込む形にはなっても保持しきれない。プレスで奪った方にチャンスが来るという流れでした。
もともとレアル・マドリーとバルセロナはよく似ています。最大のライバル同士なので、似ているなどと言うと怒られそうですけど、他のチームと比べると一番プレースタイルが似ているのはレアル・マドリーでありバルセロナだと思います。
今回も似た者同士の対決になりましたが1つ違っていたのは、レアル・マドリーが相手DFラインの裏を再三狙っていたのに対して、バルセロナはそういう攻め込みが少なかったことです。そしてこれが明暗を分けることになりました。
ベリンガムとカマビンガの配置換えの意図
どちらもハイプレス、そしてマンツーマン。
1分、前進守備のハイセンが目測を誤って入れ替わってしまい、バルセロナが攻め込みます。さらにカマビンガのミスパスからラシュフォードがシュート。2分、レアル・マドリーの最初の攻め込みからビニシウスが倒れてPK。VARが介入した結果、判定は覆りましたが立ち上がりから波乱含みでした。
12分、今度はバルセロナのクバルシのミスからムバッペが豪快なミドルボレーを突き刺しましたがオフサイド。
ここまでのマッチアップではベリンガムがバルデをマークしていました。しかし、20分あたりでカマビンガとベリンガムの位置を入れ替えています。レアル・マドリーの先制点はその直後でした。22分、ベリンガムがターンでマークを外し、バルセロナのライン裏へ飛び出すムバッペへスルーパス。ムバッペが抜け出して1-0。
それまで右外で守備をしていたベリンガムが中へ移動したことで生まれたゴールでした(下図)。右外がベリンガムでもカマビンガでもウイングタイプではなく、右のサイドアタックはSBバルベルデの攻撃参加をあてにしていますから、ポジションを入れ替えたのはどちらが外に張るかではなく、どちらを中へ入れるかという判断でしょう。

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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
