REGULAR

美しく11人の個がピッタリ収まる、アーセナルという「箱」は大きくなるのか?

2025.10.08

新・戦術リストランテ VOL.87

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第87回は、「欧州5大リーグで優勝するチーム像そのもの」と西部氏が絶賛するミケル・アルテタのアーセナル。すべてが揃っていて穴がない非常に完成度の高いチームだが、それゆえに感じてしまう不安とは何なのか?

欧州5大リーグで優勝するチーム像そのもの

 プレミアリーグ第8節、ウエストハムを2-0で破ったアーセナルが首位に立ちました。2位リバプールとの差は1ポイント。今季の優勝争いは激しくなりそうです。

 穴がないです。攻めても守っても強いですし、セットプレーも強力、選手層がほどよく厚い。新加入のスビメンディ、エゼ、ギェケレシュも期待に応えている。ギェケレシュに関してはやや微妙かもしれませんが、その点は後ほど。

 基本フォーメーションは[4-2-3-1]ですが攻守で可変します。攻撃は[4-3-3]に近いですが、左SBカラフィオーリが偽SBとして組み立てに加わります。このあたりはマンチェスター・シティで一緒に仕事をしたグアルディオラ監督譲りと言いますか、アルテタ監督らしさでもあります。サイドにウイングが張るところもそうですね。

 MFの層が厚い。後方にスビメンディ、前方にエデゴー、エゼ。ライスとミケル・メリーノはどっちもできます。この中から3人がプレーしていて、そこに左SBが加わります。前線はCFギェケレシュ、右がサカ、左がマルティネッリかトロサールですが、エゼもウイングでプレーできます。

 テンポの良いパスワークからのウイングの突破、SBのオーバーラップ、ポケットへの侵入と、サイドからの攻め込みルートは多彩。カウンターも鋭く、特にエデゴーを経由した時は決定機になりやすい。サリバ、ガブリエウが上がってくるセットプレーはアイディアも多く、キッカーも安定していて得点源になっています。

 守備は[4-4-2]と[4-1-4-1]を状況に応じて使い分けています。ミドルブロック、ローブロックからの押し出しが強く、前進守備になった時の寄せの速さ、球際の強さがあります。

 技術があって戦術眼が高く、強度がある。選手層もある。保持力、カウンターの威力、守備の固さ、セットプレーと全部揃っていて、欧州5大リーグで優勝するチーム像そのものと言っていいでしょう。

「特別な存在」がいない功罪

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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