“ボイコット”“出禁”は事実無根。限界寸前から「吹っ切れた」中村敬斗が初先発1G1Aでランス完全復帰!
Allez!ランスのライオン軍団 #18
2025-26シーズンは中村敬斗、関根大輝が牽引する若き獅子たちの最新動向を、現地フランスから小川由紀子が裏話も満載でお届けする、大好評のスタッド・ランス取材レポート。
第18回は、今夏の移籍騒動を経て笑顔全開で帰ってきた中村の現状と、関根が直面する新たな課題について。
リーグ公式が採点「9.48」のNAKAMURA劇場!
9月23日に行われたリーグ2(フランス2部)第7節のクレルモン戦で、中村敬斗は、スタッド・ランスの一員として今シーズン初めて先発出場した。
お馴染みの入場テーマの中、赤と白のホームユニフォームで本拠地オーギュスト・ドゥローヌのピッチに歩み出てきた中村の姿は、見慣れていたはずなのになんだか新鮮な感じがする。
そしてさっそく、背番号17は見せ場を連発した。
昨シーズン磨きをかけた、左サイドを突破しての左足クロスは何度も相手守備陣を脅かし、14分にはFWアミン・サラマのヘディング弾をアシスト。ランスが先制に成功する。さらに前半終了間際には、中村自身がゴール正面から押し込んで2点目をマークした。
後半1点を返されたが、ランスはその後2点を追加し、真冬のような冷たい雨が降る中、火曜の夜にスタジアムへと足を運んだ9291人のサポーターの前で、4-1という華々しい勝利を飾ったのだった。

クレルモンが3分に退場者を出し、ゲームの大半を10人で戦っていたという数的アドバンテージはあったが、勝ち点で拮抗していた相手との試合に勝ち切れたことは大きい。そしてその重要な一戦で違いを見せつけたのは中村だった。相手の一発退場も、中村が後方から出したパスを競り合う中で生まれたものだ。
3日前の第6節サンテティエンヌ戦(●3-2)で後半59分から途中出場し、7月12日に行われたプレシーズン最初の練習試合、ズルテ・ワレヘム(ベルギー1部)戦以来、2カ月以上ぶりに実戦復帰。迎えた初スタメンのこの日は、得点に絡んだシーン以外にも何度も好機を作り出し、ウイングバックとして守備でもボール奪取の場面で鮮やかなテクニックを見せつけるなど、「一人だけレベルが違う」といったパフォーマンスだった。その彼には、リーグ公式サイトの採点でも「9.48」(10点満点)という、普段見たこともないような高得点がつけられていた。
試合後の取材エリアでも、記者たちの話題はNAKAMURA一色。カレル・ゲラーツ監督も、
「彼は多くのチャンスを作り出せるし、めったにボールを失わない。我々のチームにとって非常に重要な存在だ。今日の試合でも、あらためて彼が持つ力を示してくれた」
と絶賛だった。
「膝スラしようかなと思ったんですけど…(笑)」
だが、最初のアシストの場面でも、ゴールを決めた後も、なんだか喜び方がおとなしかったのが気になった。これまでは、ゴールを決めるたび「バモ〜ス(vamos)!」という雄叫びとともに(たぶん)、膝スライディングを披露していた中村。メンタルケアのための離脱と聞いていたが、フィジカル的には快調そうに見えても、そちらはまだ完全には戻っていないのか……?
しかしその懸念は、一瞬にして吹っ飛ばされた。中村は、その場が一気にパァっと明るくなるような陽気さで取材エリアに登場。笑顔全開で、さっきの心配はなんだったのかとズッコケるくらいに元気いっぱいだった。
「いや〜、なんか去年点取った時とは反応が違って、『うぇ〜い』 みたいな。それで『あれ?』と思って。俺も膝スラしようかなと思ったんですけど……(笑)」
ゴール後の周囲の反応が意外に薄かったために、喜びを爆発させるタイミングを失ってしまったらしい。
「ただ、去年は相当苦しんだじゃないですか。 なので、あのホームでのマルセイユ戦(今年3月29日)のゴールとかの喜び具合とは、やっぱり比較できないですね」
「それはそうっすよね。あの10何試合勝ちなしでホームで点取って勝てた時はもう……」
と隣にいた関根大輝もうなずく。

クレルモン戦で中村は84分にピッチを退いたけれど、フルで出場できるだけのフィジカルコンディションは整っていた?
「大丈夫ですよ。できるんですけど、でも金曜日(第8節ナンシー戦)もあるし、やりすぎてしまうとコンディションが落ちたりするので。監督からも、交代したかったらいつでも言ってくれ、と言われていたんです」
……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
