「罰ゲーム」ではなくなったACLE、メルボルン・シティ対広島で感じた“恩恵”と“疑問”
サンフレッチェ情熱記 第28回
1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始し、以来欠かさず練習場とスタジアムに足を運び、クラブへ愛と情熱を注ぎ続けた中野和也が、チームと監督、選手、フロントの知られざる物語を解き明かす。第27回は、9月から開幕したACLEリーグステージに参加する広島を通して感じたもはや「罰ゲーム」ではなくなったアジア最高峰の大会の進化と1つの疑問について。
9月23日の柏対広島戦は、まさしく「激闘」。ミヒャエル・スキッベ監督が「Jリーグでもトップクラスの試合だった」とその熱量と激しさを表現した。言うなれば、90分間ずっとハイスパート・フットボール。両チームともアクセルを踏みっぱなしで、息をつく暇もない。ゴールこそ生まれなかったが、停滞する時間がほぼなかったこの闘いは、まさにエンターテインメントの極地でもあった。
ただ、試合は面白かったが、現実は厳しい。広島と首位・鹿島との差は9ポイントに広がった。残り8試合、鹿島との直接対決が終了しているという現実も合わせて考えれば、リーグタイトルは非常に厳しいと思わざるを得ない。
しかし、選手たちに「諦め」はない。
「何が起きるか、わからない。だからこそ、目の前の試合を1つずつ、勝っていくしかない」
この日、約1年ぶりにボランチで先発した塩谷司は語った。彼だけじゃない。佐々木翔も田中聡も、異口同音に同じ意味の言葉を口にした。選手たちはまだ何も諦めていない。
諦めてはいけない理由もある。
もちろん、どういう状況であったとしても、プロとしてサポーターの期待に応える責務を持っていることは当然だ。それは前提として、もう1つの理由がある。それは、来季のACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)の出場権獲得である。
「2位」以上を死守しなければ「大きなもの」を失う
来季、ACLE出場権の日本に対する枠組みはすでに発表されているので、まずはご紹介したい。以下はJリーグ公式サイト「2026/27シーズンAFCクラブ競技会の出場枠について」からの引用である。
「2025年5月20日にAFCクラブコンペティションランキングが更新され、日本は東地区1位となりました。
それに伴い、2026/27シーズンのAFCクラブ競技会の出場枠が決定しましたのでお知らせいたします。
2025明治安田J1リーグ優勝クラブ、2026J1リーグ 特別大会(仮称) 優勝クラブ、2025明治安田J1リーグ準優勝クラブがAFCチャンピオンズリーグエリート(ACL Elite)2026/27に、第105回天皇杯優勝クラブが、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL Two)2026/27に出場となります」
今季との大きな変更点は、来年に行われる明治安田Jリーグ百年構想リーグ優勝クラブにACLEの1枠が与えられること。これに伴い、今季のJリーグにおけるACLE出場枠は2位までとなり、3位チームにはACL2も含めて出場権が与えられないことだ。
第31節終了時点での順位を見てみると、2位の神戸が57ポイント。6位の広島は52ポイントで、勝ち点5差。得失点差も+15と+14でほぼ拮抗しており、厳しいことは確かだが逆転は十分に可能だ。「準優勝」と「3位」とではクラブにとって大きな差があることを、選手たちはよく認識している。
欧州でも、UEFAチャンピオンズリーグに出場できるかそうでないかで、クラブ規模は大きく変わってくるのが通例である。昨季のUEFAチャンピオンズリーグにおける賞金は、以下の通りだ。
・優勝:2150万ポンド(約43億円)
・準優勝:1590万ポンド(約32億円)
・準決勝敗退:1290万ポンド(約26億円)
・準々決勝敗退:1070万ポンド(約21億円)
・ラウンド16敗退:940万ポンド(約19億円)
・リーグステージ出場: 170万ポンド(約3億4000万円)
・リーグステージ勝利:180万ポンド(約3億6000万円)
・リーグステージ引き分け:59万ポンド(約1億2000万円)
もちろん欧州チャンピオンズリーグに優勝するには、選手獲得費用や環境整備費用など、多くのコスト投入が必要になる。出場するだけで3億円以上の賞金を得られるとすれば、クラブにとってこれほど魅力的な大会はない。
アジアチャンピオンズリーグエリートも、欧州ほど巨額でないにしても、多くの賞金が得られる大会となった。2024-25シーズンの例を挙げておこう(今季の賞金は明らかになっていないが、前シーズンを踏襲するとも見られている)。
・優勝:1000万ドル(約15億円)
・準優勝:400万ドル(約5億9000万円)
・準決勝敗退: 60万ドル(約8800万円)
・準々決勝敗退: 40万ドル(約5900万円)
・ラウンド16: 20万ドル(約3000万円)
・リーグステージ: 80万ドル(約1億2000万円)
・リーグステージで勝利:10万ドル(約1500万円)
2024-25シーズンのACLEで準優勝を果たした川崎Fは、総額約660万ドル(約9億5千万円)を獲得したと伝えられている。これほどの賞金が得られるビッグトーナメントに出場するかしないか、それは未来のクラブ経営に大きな影響を及ぼすことは言うまでもない。
川辺駿は言う。
「賞金も多いACLEを勝ち取ることは、チームが強くなるポイントの1つだと思う。決勝トーナメントに行けばより注目度も高くなるし、相手のレベルも違ってくる。名前のある選手や資金力のあるチームが多いんで、そういう選手たちとプレーするっていうのはいい経験にもなる。選手としてはやっぱりいい順位に行きたい。まずは東地区で勝ち上がることが重要だと思いますね。
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Profile
中野 和也
1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するレポート・コラムなどを執筆した。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。以来10余年にわたって同誌の編集長を務め続けている。著書に『サンフレッチェ情熱史』、『戦う、勝つ、生きる』(小社刊)。
