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佐々木雅士、キム・ヒョンウ、山中惇希、深港壮一郎。夏の加入組がV字回復のいわきにもたらした新たなダイナミズム

2025.08.29

いわきグローイングストーリー第11回

Jリーグの新興クラブ、いわきFCの成長が目覚ましい。矜持とする“魂の息吹くフットボール”が選手やクラブを成長させ、情熱的に地域をも巻き込んでいくホットな今を、若きライター柿崎優成が体当たりで伝える。

第11回では、佐々木雅士、キム・ヒョンウ、山中惇希、深港壮一郎の4人に注目。夏の加入組がV字回復のいわきにもたらした新たなダイナミズムとは?

 いわきは今季、シーズン途中の2度の移籍市場で4人の選手を獲得した。

 6月の特別登録期間に佐々木雅士とキム・ヒョンウら攻守の即戦力を獲得。失点が続いていた守備陣のテコ入れ、そして新たな得点源の獲得したことで喫緊の課題を解消することができた。

 また、7月7日から始まった第2登録期間には山中惇希と深港壮一郎を完全移籍で獲得。ここでは左利きで左サイドを担える選手たちを獲得することで両サイドのパワーバランスを均等化することに成功した。

 彼らの適応能力と成長意欲も相まってチームの力に昇華し、それがリーグ後半戦の成績につながっている。即効性と将来性――。選手獲得に至った狙いがどうチームの力になっているのか、一人ずつ迫っていきたい。

佐々木雅士――世代別代表常連の現代型GK

 かつて、いわきFC U-18に所属していた津田新とは柏レイソルジュニア時代のチームメイト。当時からいわきFCは佐々木の存在を知っていた。石田侑資とは千葉県国体選抜メンバーや世代別代表で共にプレーした仲でもある。

 シーズン前からGKの陣容は未知数だった。FC今治に移籍した立川小太郎や現役引退した田中謙吾氏は前所属チームの経験やある程度の年数を重ねており、ピッチ内外でリーダーになれる存在感を示していた。

 一方、今季の開幕戦からゴールを守ってきた早坂勇希は大学卒業後、川崎フロンターレに3年在籍していたが出場試合数は1試合に留まっていた。そしてジュ・ヒョンジンはプロ2年目、松本崚汰は大卒ルーキー。年齢のほかに経験もモノを言うGKは厚みがほしいポジションだった。

 佐々木は今季、ジュニア時代から慣れ親しんだ柏レイソルを離れて、出場機会を求めてファジアーノ岡山に期限付き移籍する。だが岡山にはスベンド・ブローダーセンという絶対的な守護神がおり、その分厚い壁に阻まれていた。新しい環境に身を置きながらもどかしい日々を過ごしていたときに、いわきから声が掛かり、「試合に出場してチームの力になりたい」という一心で岡山との期限付き移籍を解除し、いわきに新天地を求めた。

 J1で30試合近くプレーした経験があり、かつて世代別代表ではパリ五輪に向けたメンバーにもコンスタントに選出されていた若武者だ。佐々木の特徴は「シュートストップと1対1の寄せの速さ。ビルドアップやフィードで攻撃の起点になること」であり、現代型GKそのものだ。足元のプレーでも11人目のフィールドプレーヤーと呼べる働きを見せている。プレッシャーを受けても冷静に対処していく落ち着きは柏レイソルアカデミーの一貫した取り組みで培ったものだ。「GKからボールを持ちたいチーム方針だったのでフィールドプレーヤーとトレーニングすることもあった」という環境でボール回しの技術を磨いた。

 左足のロングキックで味方選手に付けることもできれば、味方のバックパスにプレスを掛けてくる相手に対して視野を確保しながら冷静に対処できる。マイボールの時間を増やし、プレーが途切れることなく攻撃に転換できるので下道でつなぐ戦い方の機能性を高めている。

 また、いわきは最終ラインが高いため、DFラインの背後を狙われやすい傾向にある。「彼の特徴を踏まえて背後のケアは解消される」と田村雄三監督は期待を懸けていた。佐々木が最後方からコーチングを絶やさず状況判断に優れたプレーをすることを受けて、最終ラインの真ん中を担う白井陽貴も「後ろから細かくアプローチしてくれて助けられている。連係ミスが減ったことはプラスで、あとは失点を減らすことが僕たちの使命になる」と語る。こうして守備面の改善が進んでいる。

 今、佐々木はいわきに加入したあと全試合に出場中だ。

……

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Profile

柿崎 優成

1996年11月29日生まれ。サッカーの出会いは2005年ドイツW杯最終予選ホーム北朝鮮戦。試合終了間際に得点した大黒将志に目を奪われて当時大阪在住だったことからガンバ大阪のサポーターになる。2022年からサッカー専門新聞エル・ゴラッソいわきFCの番記者になって未来の名プレーヤーの成長を見届けている。

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