25-26の新機軸はバイエルンの[3-3-4]。名将ロバノフスキーの意志を継ぐ「ユニバーサルフットボール」の可能性
新・戦術リストランテ VOL.81
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第81回は、西部氏が「いきなり今季の真打ちが出てきた」と評価するコンパニ体制2年目のバイエルン。旧ソ連の名将ロバノフスキーが提唱した「ユニバーサルフットボール」を体現するサッカーの可能性について考察してみたい。
「自由」と「スペシャリティ」のいい塩梅
毎シーズン、「おっ」と思うチームというのが出てきます。昨季ならバルセロナと後半戦のパリ・サンジェルマン、その前のシーズンならレバークーゼンですね。
今季早くも、これじゃないか? という候補が現れました。バイエルンです。
ブンデスリーガ開幕戦のRBライプツィヒ戦に6-0の大勝。ケインがハットトリック、オリーセ2点、新加入ルイス・ディアスも得点しています。
秩序と自由のバランスが絶妙でした。この試合だけで判断するのは早いかもしれませんが、これはちょっと凄いのが出てきたんじゃないか、という期待感があります。
フォーメーションが独特で、ありそうでないものでした。ただ、特殊なサッカーをしているわけではないんです。すでにあるものを整理して組み替えた感じ。違和感がないというか、これは選手もやりやすいのではないかな、という出来上がり。チームとしての秩序がしっかり決まっているけれども、選手の入れ替わりが自由。流動的だけれども、個々のスペシャリティを阻害するほどではない。何かいい塩梅なんです。
互換性の高い[3-3-4]のシンメトリー構造
攻撃から見てみます。ビルドアップの基本は2+1。ター、ウパメカノのCBの2人にMFがプラス1になります。プラス1は主にキミッヒでしたが、ゴレツカになることも。
キミッヒはCBの間に下がることもあれば、横へ入ることもあります。2CBのままのビルドアップもありましたが、だいたいキミッヒが下がって3枚回しでした。
ゴレツカはアンカーポジション。ここからがちょっと変わっていて、サイドはSBとウイングのペア、中央が2トップという形。[3-3-4]みたいな配置です(下図)。

SBとウイングはレーンをずらします。スタニシッチがハーフスペースならルイス・ディアスは大外、スタニシッチが外ならルイス・ディアスは中ですね。右のライマーとオリーセも同じです。ポジショナルプレーの原則通り。
2トップは左側がケイン、右側がニャブリ。ただ、流れの中で入れ替わりもあります。入れ替わりは他の場所でもありまして、CB2人以外は入れ替わってもいいことになっているようでした。ただ、それぞれの場所でのタスクは決まっていて、秩序が固定的で人の動き方は自由という感じ。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
