13年ぶり母国復帰で開幕弾!「アラフォー」ジルーの“フランスでキャリアを締めくくる”幸せ
おいしいフランスフット #19
1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第19回(通算177回)は、2012年からロンドン、ミラノ、ロサンゼルスを渡り歩き、「魅力的」なリールの新戦力としてリーグ1の舞台に帰ってきた、今年39歳のフランス代表歴代得点王について。
電話をもらって2週間後の「信じられないような挑戦」
8月15日にリーグ1が開幕した。
欧州チャンピオンの称号を提げての参戦となるパリ・サンジェルマン(PSG)が、今シーズンも別格の強さを見せつけるであろうというのがもっぱらの予想だが、それ以外にリーグ1サポを沸かせているのは、フランス代表の歴代最多得点を誇る超ベテランストライカー、オリビエ・ジルーのまさかの母国復帰だ。
9月30日に39歳となるジルーが最後にリーグ1でプレーしたのは、13年も前の2011-12シーズンのこと。この年、リーグ得点王の働きでモンペリエをリーグ優勝に導くと、ジルーはアーセナルに引き抜かれ、トロフィーを置き土産にフランスを去った。
アーセナルで5シーズン半プレーした後、冬のメルカートで宿敵チェルシーに鞍替え。チャンピオンズリーグ優勝を経験したのちに、セリエAのミランに渡り、ここでもリーグ優勝を果たすと、アメリカへ渡って代表の盟友GKウーゴ・ロリスがいるロサンゼルスFCに加入した。
新大陸でのサッカーは、本人いわく「戦術が自分に合わず」、レギュラーに定着しないまま約1年でロサンゼルスFCを退団したが、その後7月1日、リールと契約を結んだことが発表された。
欧州リーグからMLSに行く選手の多くは、「キャリアの締めくくり」である場合が多い。スティーブン・ジェラード(LAギャラクシー)、ディディエ・ドログバ(フェニックス・ライジングFC)ら、かつての名選手たちも彼の地でキャリアを終えている。
「家族にとっても住環境がよく、欧州でのように露出されない場所でサッカーを続けられる」というのが、彼らがアメリカを選ぶ理由だ。現在インテル・マイアミに所属しているリオネル・メッシなどもきっと同じ気持ちだろう。
思いつくところでは、レアル・マドリーからLAギャラクシーに渡ったデイビッド・ベッカムは、その後もミランへのレンタル移籍を繰り返したあと、PSGでキャリアを終えている。入団したのが37歳、引退したのは38歳のバースデーの数日後だった。
リールとの契約が発表された翌日に開かれた入団会見の席でジルーは、2週間ほど前にオリビエ・レタン会長から電話をもらい、すぐに「リールのプロジェクトを魅力的だと感じた」と経緯を明かした。
「13年ぶりにフランスに戻ってプレーすることは、自分にとってまたとないチャンス。信じられないような挑戦だ。もっと楽な道を選びたかったら、別の国に行って、注目を浴びずにひっそりとプレーすることもできたかもしれない。でも私はフランスに戻ることを決めた。とてもハッピーだし、ワクワクしている」
“フランスでキャリアを終えること”には、それまで特にこだわってはいなかったとのことだが、
「今はとても重要なことだと思える」
としみじみとした様子でジルーは言葉を紡いだ。
「体が『もうここまでだ』と言うまで続ける」
……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
