パーマー「右」の意図。クラブW杯決勝でチェルシーは最強パリSGをいかに攻略したのか?
新・戦術リストランテ VOL.75
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第75回は、クラブW杯決勝チェルシー対パリ・サンジェルマンの戦術分析。圧倒的な強さを見せていたCL王者をエンツォ・マレスカのチームはいかに攻略したのか?――その謎に迫りたい。
奏功した「マンマークのハイプレス」
チェルシーが前半で3ゴール、クラブW杯決勝でパリ・サンジェルマンを下して優勝しております。
チェルシーの勝因はパーマーをトップ下ではなく右サイドに起用したこと。それと関連しての前線からのプレッシング、右サイドへの攻撃の3つだと思います。
これまではパーマーを[4-2-3-1]システムのトップ下に起用、ウイング的なサイドMFを2人使っていたチェルシーでしたが、決勝ではパーマーを右サイドに置き、トップ下にエンソ・フェルナンデスとしました。そしてボランチにはカイセドに加えてリース・ジェームス。中盤の中央に守備の強い3人を配してPSGのビティーニャ、ファビアン・ルイス、ジョアン・ネベスの3人へ圧力をかけます。
マンマークのプレッシングでチェルシーは序盤からペースをつかみました。開始2分で、ハイプレスからファビアン・ルイスのミスを誘っています。
PSGの構造を分析した上での的確な対抗策でした。2025年に入ってからのPSGは無双状態、国内外のタイトルを総なめにしていてクラブW杯でも順調に決勝まで進んできています。ある意味、それが仇になったという側面はあるでしょうね。PSGのやり方は変わらないので、どこを抑えてどこを突くのか、対策を立てやすかったと思います。
PSGの配置と動き方をざっくりまとめますと、まず自陣のビルドアップではビティーニャが頻繁に下りてきます。ボールを持ったら奪われない、ドリブルで運び出せるビティーニャの存在は大きく、チェルシーとすればここを抑える必要があります。逆に言うと、ビティーニャを制限できればPSGの組み立てをかなり抑えることができる。GKドンナルンマは組み立てにほとんど関与しないからです。
相手がマンマークでハイプレスしてきた時のキーマンはGKです。フィールドプレーヤーをマンツーマンでマークしにきている以上、GKは必ずフリーになるからですが、PSGは積極的にGKをビルドアップに参加させていません。その代わりにビティーニャが広範囲に動いてボールを引き取り、ドリブルで相手を引きつけて味方にスペースを作ります。チェルシーは守備時の[4-4-2]の2トップであるジョアン・ペドロとエンソがビティーニャを監視していました。この役割をパーマーでなくエンソにしたところが1つのポイントですね。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
