2年を超えるリハビリの日々からカムバック間近!サガン鳥栖の背番号10・本田風智が見据える、九州ダービーでの公式戦復帰
プロビンチャの息吹~サガンリポート~ 第17回
6月29日。実に777日ぶりとなる対外試合のピッチに、本田風智が帰ってきた。この2年は度重なる負傷に見舞われ、リハビリの日々を強いられてきた彼は、まだサガン鳥栖の背番号10を託されてから、公式戦の舞台に立っていない。やはり長期離脱に苦しんだアカデミーの後輩・楢原慶輝の戦線復帰を見届けたいま、久々の公式戦出場のターゲットとなる日を明確に見据え、本田は準備を着々と整えている。
9か月ぶりの公式戦。ピッチに立った楢原慶輝の感慨
6月11日、天皇杯2回戦・愛媛FC戦。この試合の74分から楢原慶輝がピッチに立った。楢原にとっては昨季のJ1第30節・川崎フロンターレ戦以来、約9カ月ぶりの公式戦のピッチだった。ルーキーイヤーだった一昨季の9月、練習中に右膝前十字靭帯損傷の重傷を負い、長期離脱。懸命のリハビリを経て、昨季の8月に復帰したものの思うように状態が上がらず。シーズン終盤は翌年以降に万全の状態で復帰することを見据えて、試合への出場を見合わせていた。
今季は沖縄キャンプ序盤までチーム練習をこなしていたものの、キャンプ中盤の練習中、ひざに痛みが出てしまうとそこから再び、離脱を強いられてしまう。「その日によってひざの状態が変わる」(楢原)という明日が見えない日々に不安を抱えながらも懸命にリハビリに取り組み、ようやくたどり着いた復帰の舞台だった。
「試合に出るまでの練習や、ここにたどり着くまでの大変さが一番分かったのがリハビリ期間だったので、ここまで戻ってこられたというのは自分のなかではとても大きなことです。まだ、足のことに関してはしっかりと向き合いながらやっていかないといけないことが多いので、またこのピッチに立つために自分がやらなければいけないことに対して、怠ることがないようにしてまた取り組んでいきたい」(楢原)
背番号8は約20分間のプレーを終えて、それまでの過程を振り返りながら感慨に耽った。
ハイタッチに込められた先輩からの「無言のエール」
そんな背番号8の姿をスタンドから特別な思いで見ていた選手がいた。楢原にとっては下部組織の先輩であり、背番号10を着ける本田風智だった。
楢原のリハビリの日々、その傍らには常に本田の姿があったと言っても過言ではなかった。なぜなら、楢原以上にけがとの戦いを続けていたのが本田だったからだ。23年5月14日、アビスパ福岡との九州ダービーで左ひざを負傷した本田は、そこから度重なる手術を経験し、リハビリは2年以上の歳月が経過していた。ともにひざのけがを抱え、リハビリに臨む日々。互いの苦悩を知るからこそ、先に復帰を果たした楢原の姿に本田は特別な思いを寄せていた。
天皇杯・愛媛戦に臨む選手たちを送り出す際、本田は楢原とのハイタッチにある思いを込めた。
「慶輝ともずっと一緒にリハビリをやってきた仲で、アイツがなかなかうまくいかずに苦しんでいるのも見ていたので、慶輝の復帰であって自分の復帰ではなかったんですけど、自分のことのようにうれしくて。まずはけがなく試合を終えて戻ってきてほしいなという思いと、いままでのことを考えて慶輝が頑張ってきたのを知っているし、その頑張りが報われてよかったなという思いで送り出しました」(本田)
そんな思いを楢原はしっかりと受け取っていた。
「試合に向かう前のメンバー外選手とのハイタッチのところで、風智くんが『いってこいよ!』みたいな感じで送り出してくれて、優しく背中を押してもらったような感覚を僕は勝手に感じたんです。お互い、苦しいリハビリ期間を過ごしてきたなかで自分が先に復帰できましたけど、そのことで風智くんが少しでも前向きになってくれたらいいなと思いながらやっていたところはあります」

特別な言葉を交わしたわけではない。それでも、苦しくも長い時間をともにしてきた関係性だからこそ、送り、感じ取った無言のエール。復帰したピッチで見せた後輩の姿は先輩に確かな刺激を与えていた。
「慶輝も長い離脱のあと、復帰した試合であれだけのハイパフォーマンスを出せるというのは、あの姿を見ると自分も復帰したときにしっかりプレーできるんじゃないかという前向きな気持ちにさせてもらいました。慶輝もあれで思ったようなパフォーマンスが出せなかったり、以前よりも差があるように僕が見ていて感じてしまうと、僕自身も復帰に向けて不安を覚えてしまったかもしれない。ただ、慶輝はクオリティの高いプレーをしていたので、僕が試合に出るときにこういう感じで復帰できるんじゃないかというポジティブな気持ちにさせてもらいました」
背番号10のお披露目となった練習試合で復帰後初ゴールも記録!
楢原の復帰から18日後、今度は本田が大きなステップを踏み出すことになった。ひざの負傷から777日が経過した6月29日、西南学院大学との練習試合で本田は離脱後、初めての対外試合のピッチに立つことになった。この試合では後半開始からピッチに立つと、試合終了まで45分間プレー。右足からの強烈なミドルシュートがクロスバーを叩くと、負傷した左足からのミドルシュートで“復帰後初ゴール”も記録した。
「良いパフォーマンスとは言えなかったですけど、約2年ぶりに実戦に復帰できて一歩進んだかなと思いますし、けががなくてよかったなと思います」
練習試合ながら事前に自身のSNSで復帰の“匂わせ”をしていたこともあり、負傷離脱していた期間に変更した背番号10の初めてのお披露目を、多くのサポーターが見届けた。
そんな先輩の姿を楢原もしっかりと見つめていた。天皇杯で復帰したもののひざの状態は一進一退の状況が続き、再び、別メニューとなってしまったが、ピッチの外から本田の復帰を見届けた。
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Profile
杉山 文宣
福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。
