REGULAR

山本、山口、河原、高井、佐々木が得たもの。川崎Fに伝播するACLE準優勝の刺激

2025.05.29

フロンターレ最前線#16

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第16回は、準優勝に終わったACLEの刺激について。息つく間もなく始まったリーグ戦5連戦も戦い抜く中、山本悠樹、山口瑠伊、河原創、高井幸大、佐々木旭が得たものとは?

 川崎フロンターレにとっては、激動の5月だった。

 サウジアラビアで開催されたACLEファイナルズを勝ち進み、クラブ史上初めてその決勝を戦ったのは、4日のことである。アジア王者を決める大勝負。スタジアムを埋めた約5万8000人のうち98%はアル・アハリのサポーターという完全アウェイだった。

 結果は0-2で準優勝。ロベルト・フィルミーノ、イバン・トニー、リヤド・マレズなど欧州トップレベルで活躍したタレントを擁するアル・アハリと力の差があったのは否めないが、中2日で3連戦という過密日程も不利に働いた側面はあっただろう。善戦こそしたものの、アジアの頂にはたどり着けなかった。

 悔しさを握りしめて帰国した選手たちに待っていたのは、J1の過密スケジュール。日本に着いたのは5日の夜だ。チームのオフは翌日だけで、7日からトレーニングを再開している。「本当は休みをたくさんあげたいんですけど」と長谷部茂利監督は本音を漏らしていたが、11日から25日にかけて未消化分を含めた中2~3日のリーグ5連戦が始まるため、連休でリフレッシュできる期間もなく再開に備えた。

山本が身につけた感覚、山口がつかんだ自信

 ACLEという国際舞台を通じて選手たちがどう変わったのか。それは、このリーグ5連戦における注視すべきテーマだった。

 例えばMF山本悠樹は、そこで得た経験をピッチで示し続けた選手の1人だ。ワールドクラスとの対峙やスタジアムの環境など、様々な圧力を感じた中でプレーしたことで得られた感覚があったと口にしている。

 「外国人選手特有のリーチの長さ、個人の能力の高さ。あとは雰囲気ですかね。あれだけアウェイの中でプレーするのはなかなかないと思いますし、その中でいかに落ち着いて判断してやれるかは、もっと磨けるところがあると思います。個人としてももっとできてよかったと思う。課題というかあのレベルの中でもやらないといけないと感じました」

 実際、帰国後のJ1で山本が見せた「違い」は際立っていた。ピッチの盤面全体を把握するようなゲームメイクに磨きがかかり、局面での技術でも精度の高さを披露し続けている。

 第14節・横浜FC戦(○2-1)ではマルシーニョのスピードを生かした空間を使ったパスを通すだけではなく、意表を突いたFKで自ら先制弾も記録。第17節・セレッソ大阪戦(○2-0)では相手守備陣に生まれたわずかなギャップと山田新の動き出しを見逃さず絶妙なスルーパスを通すなど、見えている世界が明らかに変わったように映った。本人も手応えを口にする。

横浜FC戦の山本のプレー集

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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