攻撃面の進歩と守備面のジレンマ。林幸多郎の目線から見た黒田ゼルビアの現在地

ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第24回
町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。
第24回は、今季なかなか勝ち切れない原因をチームはどう受け止めているのか。ウイングバックのレギュラーを務める林幸多郎の言葉を基に紐解く。
信じて走った先に幸運は待っていた。
第16節の清水エスパルス戦。北川航也のPKで同点に追いつかれた直後のキックオフからの展開だった。ここが勝負どころと察した左ウイングバックの林幸多郎は、猛然とゴール前へスプリント。その過程で反対の右サイドから入ってきた西村拓真のクロスに飛び込むと、林は「相手DFが前で触る」と察知したが、バウンドによって急速にスピード感を増したボールが林の頭に当たった。
電光石火の勝ち越し点。「(ゴール裏のサポーターを)煽りなよ」とチームメイトに声をかけられた林は、ゴール裏のサポーターに向かって雄叫びをあげていた。
「けっこうゴール前に行っているんですけどね……。やっときたか、って感じです」(林)
ウイングバックのポジションからゴール前まで走り込む献身性がようやく実った町田移籍後初ゴール。こうして1つの殻を破ったサイドプレーヤーは、翌節の柏レイソル戦でもクロスバー直撃のこぼれ球を押し込み、2試合連続ゴールを決めた。
また柏を突き放す追加点も林が原動力に。ナ・サンホとのコンビネーションで左サイドをえぐった林は、GKとDFの間を狙ったクロスで相手のオウンゴールを誘発。PKで奪ったチーム3点目も林のロングスローが出発点となっていたため、全3得点に絡んだ林が、柏戦勝利の立役者となった。
さらに3日後に開催されたルヴァンカップ・横浜FC戦の後半には、反対の左サイドから入ってきた下田北斗からのクロスに飛び込むと、林の右足シュートが右ポストを直撃。この絶好機はポストに嫌われたが、ウイングバックが得点シーンに絡む回数が増えたことは、黒田ゼルビアの攻撃面における進歩を物語る。林は言う。
「ウイングバックから逆ウイングバックの形は練習しているので、意識してやれていますし、チームとしてやりたいことができ始めている証拠かなと思います。攻撃面の進化ですか? その手ごたえはありますね」
チームが後につまずくきっかけとなった4月中旬の浦和レッズ戦後、チームのファーストチャンスを西川周作に阻まれたことで表情が曇っていた当時の面影はない。またロングスローの使い手としてもチームに貢献している林が、攻撃面の成果を残せていることを象徴例として、黒田剛監督も林のことを高く評価する。
……

Profile
郡司 聡
編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。