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ペーター・ボスに祝福を、ファリオーリに喝采を。PSVとアヤックスの明暗分かれた24-25エールディビジ優勝争いを振り返る

2025.05.25

VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#16

エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。

第16回では、2024-25シーズンのエールディビジでPSVとアヤックスが最終節まで繰り広げた熾烈な優勝争いについて。その行方を決めた第32節から、両雄の歩みを振り返る。

アヤックスを「一喜一憂」させたフェイエ対PSVの大一番

 PSVが26度目の優勝を飾った2024-25シーズンのエールディビジ。2位アヤックスとのデッドヒートはリーグ史に残るもので、同時刻キックオフの最終節も試合中に順位が入れ替わりながら、最後は前季王者に再び凱歌が上がった。その行方の分岐点となったのは32節、フェイエノールト対PSV(2-3)、そしてアヤックス対NEC(0-3)だった。

 日本にも各地にローカルテレビ局があるように、アムステルダムには『AT5』が、ロッテルダムには『ラインモント』がある。5月11日のフェイエノールト対PSVの2日前、ホームチームを率いるロビン・ファン・ペルシー監督の定例記者会見に、珍しくAT5の取材陣が姿を現した。

――ハロー、ロビン。私たちはAT5、“アムステルダムのラインモント”です。ご存知ですよね?

 AT5の自己紹介にファン・ペルシー監督は破顔一笑、「ヤ!(はい!)」と返事して「これまで私はAT5からインタビューを受けたことがなかった」と言った。

――私たちが今日、ここを訪れたのは今度の日曜日、フェイエノールトが勝てば……。

 「ああ、それが理由か(笑)。ウェルカム!」

 今季のアヤックスは15節時点で首位PSVに勝ち点9の大差をつけられ、3位に甘んじていた。しかし年が明けた後半戦、そのライバルが急失速したのを横目に一気にトップの座を奪った上、逆に9ポイント差をつけて独走態勢に入った。

 ところがスパルタ・ロッテルダムをホームに迎えた30節で試合終了間際に辛うじて追いつき1-1で引き分けると、続くユトレヒトとのアウェイゲームをまさかの4-0で落としてしまう。この時点で首位アヤックスは勝ち点74、2位PSVは同70と差は4。好調時ならセーフティリードだが、今はフェイエノールトの力に頼りたい気持ちがあった。しかも14時30分キックオフの32節でPSVが負けた上で、アヤックスが同日16時45分キックオフのNEC戦に勝てば2節を残して7ポイントに水が開くため、彼らは37度目のリーグタイトルを手中に収められる。

――フェイエノールトがPSVを破れば、アヤックスから花束が贈られるんじゃないですか?

 「シーズン大詰めになると、あるチームの勝ち負けに他のチームが一喜一憂することになる。それでも私は自分たちのことに本当にフォーカスしています。結局は優勝争いの状況に私たちも巻き込まれているのは確か。ともかく私たちは勝利を目指します」

 3位フェイエノールトにとっても、PSVとの勝ち点差を5から2まで縮める大きなチャンス。そういう背景もあってフェイエノールトのモチベーションは高く、いざ試合開始の笛が鳴ると10分で2点をリードする最高のスタートを切った。60km離れたヨハン・クライフ・アレーナでは「カンピユレン!カンピユレン!(優勝だ!優勝だ!)」と、アヤックスサポーターのお祭り騒ぎが始まっていた。

 しかし、PSVは26分からピッチに投入した右SBセルジーニョ・デストが後半に入って頻繁に中盤へと加わることでポゼッションを高め、50分にイバン・ペリシッチ、73分にノア・ランがゴールネットを揺らして2-2に追いつく。このまま終わると、アヤックスの優勝決定は翌節に伸びるが、それでも彼らがNEC戦に勝てば差が6ポイントに広がるので、アムステルダムっ子にとっても悪くはない。だが後半アディショナルタイム9分、PSVはノア・ランが値千金の決勝弾を決めて2-3で大逆転に成功。この瞬間、本拠が静まり返ったというアヤックスには、過度のプレッシャーがかかった。

 アヤックスとNECの力の差は明らかで、圧倒的にホームチームが攻め立ててゴールを奪うのも時間の問題と思われた。しかし、その試合の流れはユトレヒトに惨敗を喫した1週間前と同じもの。「プレーそのものは悪くなかった」「スコアは試合の流れとかけ離れている」という評価だ。59分、佐野航大のアシストからソンチェ・ハンセンが鮮やかなシュートを決められて先制を許すと、攻守に空回りして0-3の完敗に終わってしまった。

捲土重来を体現する両雄の大接戦はもはや「人間ドラマ」

……

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Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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