ユナイテッドには何が足りない?アモリム式[3-4-2-1]がプレミアで通用する以前の問題

新・戦術リストランテ VOL.66
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第66回は、第36節時点で16位というプレミアリーグ設立以降のクラブワースト順位に沈むマンチェスター・ユナイテッドがテーマ。シーズン途中に就任した戦術家と名高いルベン・アモリムの[3-4-2-1]が、なぜ機能していないのかを考えてみたい。
プレミアリーグ第36節時点でのマンチェスター・ユナイテッドの順位は16位です。すでに降格はなくなっていますが、仮にこのままだとするとプレミアリーグになってからは最低順位。それ以前を含めても1973-74シーズンの21位、72-73の18位に次ぐ悪い成績となります。ちなみに21位の時は降格しています。
ユナイテッドにとって今季がいかに異常かということです。ただし、ここ十年余の推移を見ると、なるべくしてなったと言えるかもしれません。
ELで好調、プレミアで散々が示すのは…
最後の優勝は2012-13、ファーガソン監督最後のシーズンでした。次のシーズンはストンと落ちて7位。モイーズ監督は1シーズンもたず、暫定でギグス監督に代わっています。
ファン・ハール監督の14-15、15-16は4位、5位と持ち直します。ここで満を持してのモウリーニョ監督が登場。16-17は6位、17-18は2位。復活かと思えましたが、モウリーニョは3年目でだいたい失速することが多く、案の定3シーズン目で監督交代。順位は最終的に6位でした。
モウリーニョに代わったスールシャール監督は20-21シーズンに2位に盛り返しますがこれも続かず。キャリック(暫定)→テン・ハフ→ファン・ニステルローイ(暫定)ときまして、現在のアモリム監督就任が24年11月。
ファーガソン退任後は優勝から遠ざかりましたが二桁順位は今季が初めてですね。ただ、昨季は8位ですから、ありうる結果ではあったと思います。
その代わりといっては何ですが、ELは決勝進出を果たしました。優勝すれば来季のCL出場権を得ます。スパーズとの決勝に勝つか負けるかで来季の補強予算が大きく違ってきますから、これは是が非でも勝たなければならない試合ですね。
プレミアでは散々なのにELで好調なのは不思議に思われるかもしれませんが、簡単に言えばプレミアの方がレベル高いからです。結局、プレミアの16位と17位の決勝戦ですから。
ファーガソンの時代はユナイテッド、アーセナル、チェルシーが3強でした。しかし、その後はシティ、リバプールが台頭して新たな時代を迎え、今季は今のところ3位のニューカッスルを筆頭に、ノッティンガム・フォレスト、あるいはブレントフォード、ブライトンといったチームが台頭しています。以前よりリーグ内の格差がなくなり、ビッグクラブといえども楽に勝てる試合などなくなっています。その厳しい競争の中で順位を落としたのがユナイテッドでありスパーズだったわけです。
上とも下とも戦える[3-4-2-1]が持つ幅
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。