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「最下位のチームとは思えない」いわきが苦しみ抜いて掴んだ初勝利の舞台裏。いざ、逆襲へ

2025.04.24

いわきグローイングストーリー第7回

Jリーグの新興クラブ、いわきFCの成長が目覚ましい。矜持とする“魂の息吹くフットボール”が選手やクラブを成長させ、情熱的に地域をも巻き込んでいくホットな今を、若きライター柿崎優成が体当たりで伝える。

第7回では、開幕から結果を掴めなかったいわきが、ついに第10節カターレ富山戦で初勝利を挙げるまでの試行錯誤の舞台裏を描く。

開幕から2か月、苦しみ抜いて掴んだ初勝利

 Jリーグが開幕して約2か月。いわきFCはJ2リーグ第10節・カターレ富山戦で今シーズン初勝利を挙げた。試合終了のホイッスルと同時に、選手たちは喜びの感情を爆発させた。この勝利は、チーム全員でつかんだ大きな一歩だった。開幕から約2か月、Jリーグ全体で最も初勝利が遅かったいわきFCにとって、この試合は特別な意味を持っていた。試合前日には、同じく今季未勝利だった愛媛FCがモンテディオ山形に3-2で勝利を収めており、いわきは最後の未勝利チームとなっていた。

 「決して褒められる試合内容ではなかった。ハーフタイムに選手たちに伝えたのは、『プレッシャーを感じる試合だからミスは仕方ない。残り45分、みんなでしっかり戦って勝利をつかもう』ということ。誰一人逃げず、クラブ全員で向き合った勝利だと思う」(田村雄三監督)

 「ここまで勝てなかったのは初めてで、試合終了後は泣きそうになった」(山内琳太郎)

 「この1勝はみんなにとって大きな勝利。メンタル面でも良い方向に進むと思う」(山口大輝)

 この富山戦まで、いわきFCは5連敗を喫し、2023年シーズンのワースト記録に並んだ。順位も最下位に転落し、2シーズンぶりのどん底を味わった。初勝利に至る道のりは長く険しく、富山戦の勝利は大きなターニングポイントとなるはずだ。1年を振り返ったとき、この劇的な勝利が転機となればなお良い。

スタートダッシュの失敗と自滅の連鎖

 なぜスタートダッシュに失敗し、低迷したのか。理由はさまざまだが、開幕戦のジェフユナイテッド千葉戦が象徴的だった。前半、再三のチャンスを逃し続け、シュート数わずか4本の相手に2失点を喫した。この敗戦のダメージは大きかった。千葉は昨季上位争いをしたライバルであり、いわき戦をきっかけに首位を快走。一方、いわきは真逆の状況に陥り、この明暗の分かれ方は痛恨だった。

 敗因の多くは自滅によるものだった。試合ごとの詳細は割愛するが、特に完敗だったのは第5節・藤枝MYFC戦(0-2)と第7節・水戸ホーリーホック戦(1-4)。相手のペースに飲み込まれ、すべてが後手に回った。特に藤枝戦では、いわきが大切にするサッカーのベースで上回られ、プレッシングの曖昧さやパスワークでも相手に分があった。

 ここまでの不振は誰もが想定外だった。ミックスゾーンでは、チームの不調を真摯に受け止める選手、前を向く選手、それぞれの思いを耳にしてきた。チームの雰囲気は静かになることもあったが、GK早坂勇希は常にポジティブな提言を続けた。

 「自分にできるのはシュートを止めて流れを引き寄せること。選手同士のピースがハマれば得点でき、勝利につながる強さがこのチームにはある。練習から雰囲気を変えていく必要がある。苦しい状況だが、チーム全員で前進するしかない。このクラブの夢にもある通り、浜を照らす光にならなければ。サポーターの思いを受け取り、ピッチで示したい」

今冬より川崎Fから1年間の期限付き移籍で加入している早坂

 選手たちはバラバラになったわけではなく、目の前の試合に勝利するという目標に向かって進んでいた。しかし、勝つための要素が欠け、チームとして機能していなかった。それでも、誰もがこのクラブで結果を残したいという思いを持っていた。田村監督は、シーズン前から取り組んできたことを継続し、初勝利を目指すことを決断。大きく方向性を変えれば、疑心暗鬼が生まれ、空中分解のリスクが高まると判断した。

少しずつ上昇していたゴール期待値

 潮目が変わったのは第8節・ヴァンフォーレ甲府戦から。田村監督はある数値の向上を指摘していた。……

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Profile

柿崎 優成

1996年11月29日生まれ。サッカーの出会いは2005年ドイツW杯最終予選ホーム北朝鮮戦。試合終了間際に得点した大黒将志に目を奪われて当時大阪在住だったことからガンバ大阪のサポーターになる。2022年からサッカー専門新聞エル・ゴラッソいわきFCの番記者になって未来の名プレーヤーの成長を見届けている。

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