REGULAR

厳格で繊細なPKがサッカーを壊す。レアル・マドリー対アーセナルで考えたこと

2025.04.25

サッカーを笑え #40

VARの時代はディテールの時代だ。微細なことをカメラやマイクロチップは見逃さない。バルセロナがぎりぎりのハイラインを採用し結果を出しているのは、オフサイドがオートマチックで正しく判定される技術が導入されているからだ。

が、何事にも裏と表がある。ディテールにこだわり過ぎると、コンタクトのあるスポーツ、サッカーのダイナミックさが損なわれるのだ。CL準々決勝はアーセナルが実力でレアル・マドリーを退けたが、厳格に過ぎるジャッジで正当な勝ち上がりにケチが付きかけた。

“ゴミプレー”とPKの解釈

 第2レグ、サンティアゴ・ベルナベウで9分に吹かれたあのPKは何だったのか?

 アセンシオがメリーノをつかんだ? そりゃつかんでますよ。でも、よくあることで大したことない。なので、誰も抗議しないままプレーが続いた。あの程度のことでPKを吹いた、これが第1の問題。PKはサカが外したが、外して良かった。あんな軽微なPKで通算0-4で勝ち抜きの興味が損なわれるなんてアンチ・エンターテイメント、この上ない。

レアル・マドリー対アーセナル(1-2/4月16日)、問題のシーン1つ目は0:19〜、後述する2つ目は0:39〜。2戦合計1-5でアーセナルが勝利した

 第2の問題はVARが主審に知らせるまで1分半ほどかかっていること。なぜあんなにかかるの?

 レアル・マドリーのカウンターがあり、アーセナルのカウンターがあり、レアル・マドリーがボールを回復したところでVARが呼び主審がプレーを止めた。その1分半の間のカウンターで得点が生まれていても当然取り消し。仮にどちらかのカウンターが見事に決まっていても得点取り消しで1分半前のPKで再開なんて、どっちのチームにしても納得できるわけがない。

 第3の問題は、そもそもあのアセンシオがメリーノを倒したプレーは「ボールに無関係なプレー」ではなかったか、ということ。

 蹴られたCKはクルトワの手に収まっていた。つまり、アセンシオがつかむか否かにかかわらずメリーノがボールに絡むプレー(シュートなど)をする可能性はどっちみちゼロだった。もしメリーノがボールに絡むのをアセンシオが妨害したのなら文句なくPK。でも、こういうプレーの進行に影響を及ぼさない“ゴミプレー”でのファウルの場合、悪質でない限りPKの笛は吹かれないんじゃなかったっけ?

 ちなみにゴミプレーとはスペイン語の「jugada residual」の直訳。“周辺プレー”と意訳した方が意味が取りやすいかもしれない。

 ゴミプレーと判断されてPKにならなかった典型的なプレーがコパ・デルレイ準決勝の第2レグ、レアル・マドリー対ソシエダであった。……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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